経 済
どんな化け物が出てくるか
「振興銀」ペイオフ騒ぎの裏【金融ジャーナリスト匿名座談会】
(前略)
A 気になるのは、日ごろ正確さにうるさい金融庁が、今回にかぎってはペイオフ騒ぎを見過ごしていることだ。むしろ、あえてマスコミにそう報道させているような感じがある。
B 確かに、そんな雰囲気もあるね。預金保険機構は公式発表の際、「日本振興銀行の預金金利は維持されるので、あわてて解約すると、不利な解約金利が適用されることになるので、預金者にとってプラスにならない。あわてて預金解約しないほうがいい」と説明しているが、この預金保険機構の姿勢と金融庁の姿勢には隔たりが感じられる。
C 跡形もなく清算したいというのが金融庁のホンネじゃないの。振興銀が存在した事実を忘れたいというか、国民にも忘れさせたいと。
A そうかもしれない。そもそも振興銀は設立の際から不透明だった。理解しにくいほど早急に銀行免許が交付されたのが象徴的た。
C それをいま、民主党政府は、当時の金融担当大臣だった竹中平蔵氏と、振興銀の生みの親で銀行法違反(検査忌避)で逮捕された木村剛元会長との親密さに関連づけて問題視している。自見庄三郎・金融担当大臣は「竹中氏には道義的責任がある」といい、政府三役も同様の姿勢だ。これは、民主党政権に批判的な竹中氏に対するプレッシャーだろう。
B しかし、当時のことをいえば、木村氏と親密だったのは竹中氏だけではない。その後、金融庁長官となった、当時の監督局長、五味廣文氏も木村氏とは親密だった。ところが、今回、記者会見などの場で固有名詞として取り上げられたのは竹中氏のほかには、金融庁長官だった高木祥吉氏。しかし、高木氏はほとんどこの問題には関与していない。無関係と言ってもいい。ところが五味氏の名前は一向に出てこない。
C 竹中、五味、木村の三氏は当時、金融行政のゴールデントライアングルだった。高木氏はそのなかには入っていなかった、いや、入れなかったと言ったほうがいい。
B しかし高木氏は郵政民営化の際には、竹中氏の下で法案可決に大きく関与し、その後は日本郵政の役員となった。現政権にとって好ましくない存在であることは間違いない。今回、振興銀が破綻したタイミングをとらえてお仕置きしたということだろう。しかし、高木氏は振興銀問題には無関係だ。
A 一方、金融庁としては自分たちの先輩が関与した不透明な部分には蓋をしたい。そこで、現政権の政治的な利用についてはそのまま認めて、自分らに火の粉がかからないようにしている節がある。五味氏の名前が出ないのもそのためだろうと勘ぐりたくなる。
B なるほど。そして事業譲渡ができずに清算となれば、あとは野となれ山となれか。移ろいやすいマスコミ報道など1カ月もすれば下火になる。国民の関心も別の問題に向かって、日本振興銀行の存在など忘れ去られてしまうのかもしれない。
C それにしても今回の振興銀破綻に至る経緯は面白かった。実は、事業譲渡の話が水面下では進んでいた。しかし、それが消えてしまったようにみえる。報道が1週間早かったのが原因のようだ。
A そこが焦点だね。報道が早かったので買収が消えたのか、それとも、買収が消えたので記事が出たのか。いずれにしても、公式発表で記事が出たわけではない。
C 記事が先行し、その後、破綻発表になったわけだが、その発表のあった9月10日に、振興銀では経営会議が予定されていた。その情報が外部に漏れていて、一部の記者たちは緊張していた。
B 金融庁も前日の夜は幹部たちがほとんど待機状態にあった。そのときには、譲渡話は大きく後退していたということか。
A 今後どうなるだろう。譲渡先が現れるのかどうか。
C 出現するかもしれない。いまでも、あるノンバンクや地方銀行の名前が取り沙汰されている。
B しかし、状況次第だろう。CさんがいうノンバンクはO社のことだろうけど、振興銀問題は政治問題化する可能性がある。わざわざ地雷を踏む必要もないから譲渡話は消えてもおかしくない。
A 結局、政府や当局がどうしたいかということだろう。事業譲渡によって存続させたいということなら、譲渡先、つまり買収に手を上げる企業は必ず出てくる。しかし清算したいということなら、出てこない。
B 今後、振興銀の借り手企業の間に資金繰り倒産などが拡大する可能性が高まれば、事業譲渡による事業継続に向かう可能性がある。振興銀からカネを借りている企業の多くは、他の金融機関からは借りることができないようなところだから、そうするしかないだろう。
C 振興銀の現役員陣はどうなるんだろう。少し前まで、全員が社外取締役であり、「我々は何も知らなかった」という話になっている。つまり、責任はないという主張だが。
A しかも今回の破綻処理は、まず振興銀が民事再生法を申請するということから始まった。それを受けて、金融庁は破綻処理に乗り出した。民事再生法は文字どおり、再生型の破綻処理であり、それゆえ、現経営陣の続投を視野に入れている。責任は問わないということだ。だから、元みずほ銀行の行員で作家の江上剛氏は社長として残った。預金保険機構が金融破綻管財人になったから実権はないものの、ポストとしては残っている。そのほかの取締役たちも同様だ。
B それにしても、なぜ民事再生法だったのかがよく分からない。もちろん、事業譲渡を前提にしているから再生型ということは分かるが、それならば会社更生法でもよかった。そうすれば、経営陣を辞めさせられる。
C 金融庁は破綻前に、江上氏たちと水面下で何度も協議をしていた。だから、我々も江上氏への夜討ち取材を続けた。そうしたなかで、江上氏たちの経営責任は問わずに民事再生法という結論になった。江上氏たちが責任をとって辞任したら、その後任が見つからないというわけだ。
B 経営陣が不在では倒産の申請もままならないからね(笑)。
A しかし、金融庁がいくら責任は問わないと言っても、民事再生となれば、損失を被る預金者たちは黙っていない。責任追及の動きは絶対に出てくる。それを回避する手段はただひとつ。預金に損失が出ず、すべての預金が無事に返ってくるようにすることだ。(後略)