記事(一部抜粋):2010年8月掲載

社会・文化

木村グループ「上場16社」の命運

確実に資金繰り難に襲われる

 本誌が前号で予想した通り、警視庁捜査2課は日本振興銀行(振興銀)元会長の木村剛を逮捕、銀行を「違法のデパート」にした木村を徹底的に追い込んでいる。
 東大を卒業して日本銀行に入行。独立して外資系コンサルタントの代表を務めるうち、その明快な論理と鋭い分析力が「小泉改革」を担う当時の金融相・竹中平蔵の目に止まり、2002年、金融庁の顧問に迎えられた。
 このエリートの履歴を持つ金融マンが、03年3月、銀行設立への熱い思いを描く落合伸治という当時35歳のノンバンク経営者に出会ったことが転落の第一歩となったのは、前号で記した通りである。
 35歳にして卸し金融で15年の実績は、いろいろな塵芥を落合に付着させており、その実体に気付いた木村は、「怪しい勢力」の脅しに会いながらも銀行開業後の04年11月、必死の思いで落合を切った。
 誤算は、金融コンサルタントとして社外取締役に就任、外部からサポートするつもりが、前面に出ざるをえなくなったことだろう。05年1月、社長に就任。「論理の人」が業務にタッチするようになったことで、銀行は迷走を始める。
 木村を古くから知る知人の解説――。
「彼は人の意見を聞かないエリート。金融庁の役人などハナからバカにして、中小企業のための金融機関を自分の基準で成立させ、りそな銀行クラスの規模にするつもりだった。警視庁や金融庁は、数々の違法行為を並べ立て、それをマスコミは批判的に報道しているが、木村氏は違法を承知の確信犯。銀行法の範囲内で批判しても意味はない」
 本誌が前号で指摘したように、木村は振興銀の資力をもとに、SFCGやNISグループといった商工ローン業者をまず取り込み、営業債権を買い取ることで、商工ローン業者の顧客層にも食い込み、リスク分散のために中小企業○○機構という目利きの会社を業種業態ごとに設立のうえ、銀行と中間業者(商工ローン業者と目利き会社)と顧客企業の三位一体の繁栄を試みた。
 カネと人と仕事で結びついたこのネットワークを、木村は「中小企業振興ネットワーク」と命名、08年7月からのわずか2年弱で、ネットワークは企業数160社、従業員総数約4万人、売上高4000億円規模にまで膨れ上がった。まさに「木村帝国」である。
 旧大蔵省時代の「護送船団方式」は、金融庁となって多少緩んだものの、銀行は「預金者保護」を名目に兼業を禁じられ、数々の制約を受ける。
 木村は、その縛りに公然と立ち向かった。「違法のデパート」と金融庁や警視庁が嘆く経営形態は、「木村帝国」に囲い込んだ企業をすべて生かし、それを可能にする銀行財務にするための工夫であって、木村のなかでは、外部に映る「不良債権飛ばし」も「迂回融資」も「大口融資規制逃れの融資」も「見せかけ増資」も、何の問題もなかった。
 前出の知人が再び解説する。
「彼は2020年までに預金総額を20兆円にすると宣言していた。規模拡大がすべての問題を解決するという発想。そのために、月に数店というハイペースで全国に支店網を形成、高金利を約束して預金を集めた。事件化しなければ、年内に1兆円を超しただろう。そのカネをネットワーク間で回し、グループ全体で業績をあげていくというのが彼の戦略だった」
 目的のためならなんでも許されるというのは、エリートの奢りでしかない。金融庁顧問として金融検査マニュアルの策定にも関わった木村は、金融検査などどうにでもなると嘗めてかかり、検査忌避による逮捕というしっぺ返しを食らった。
 木村を逮捕したのは警視庁だが、それだけでは済まされない。警視庁が立件を相談した相手は、通常の東京地検刑事部ではなく特捜部である。さらに、中小企業振興ネットワークには、上場企業が16社も絡み、中には「木村マジック」によって粉飾決算を余儀なくされたケースもあり、証券取引等監視委員会は黙ってはいられない。
「警視庁は検査忌避の次に出資法違反での立件を目指しています。SFCGの営業債権を買い取る際、買い戻し特約をつけており、手数料その他で実質的に金利約四五%の出資法違反になっているというもの。それから捜査は特捜部と証取委の手に移り、個別企業の粉飾決算や、木村の犯した商法や金融商品取引法の違反を、摘発していくことになるでしょう」(捜査関係者)
 業績不振企業とはいえ、上場している16社は確実に資金繰り難に襲われる。マーケットへの影響は少なくない。実際、木村は、それだけの傷跡をグループ内各企業に残してきた。
 当面、問題視される一社がインデックス・ホールディングス。携帯コンテンツ配信の大手だが、昨年3月、社長・落合正美の個人会社「落合アソシエイツ」が30億円、NISグループが5億円、振興銀が5億円を引き受ける第三者割当増資を実施、同社は一息ついたが、落合の30億円の出所が不明だ。
 同様のことが、鮎川純太の企業群でも起きている。鮎川は、日産自動車や日立製作所の母体となった日産コンツェルンを立ち上げた鮎川義介の孫。女優の杉田かおると05年に結婚(7カ月後に離婚)して話題となったが、「過去の名声」と「話題性」はあっても資金はない。
 その鮎川のグループ企業が、振興銀のダミーのように日本産業ホールディングス、マルマン、佐藤食品工業の大株主として登場、経営に関与している。木村が不在となった今、鮎川の資金繰りも含めて問題となってくるのは間違いない。
 中小企業振興ネットワークの中核企業だったNISグループにしてもそうである。中堅ノンバンクだった同社を、事実上、傘下に収めた木村は、同社の社員を手足のように使い、振興銀の支店もNISグループの出向社員によって支えられていた。振興銀は、それだけ一体化していたNISグループをネットワークの準会員であるネオラインキャピタルグループに預けた。
 同社社長の藤澤信義は旧ライブドアでファイナンス部門の幹部を務めていたが、独立後は消費者ローン会社の営業債権買い取りで名を馳せている。その資金調達先が振興銀。藤澤のグループ企業には、振興銀が大口融資規制を逃れて融資、それに加えて、NISグループを飛ばしたかのような操作も、今後、問題となってくるだろう。(後略)

 

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