記事(一部抜粋):2010年8月掲載

政 治

もはや「衆参ねじれ」で官邸主導・財務省主導のへちまもない

【霞が関コンフィデンシャル】

(前略)
 なぜここまで見事にこけたのか。理由は一つ、菅内閣が「官僚内閣」にほかならないからだ。消費税率引き上げは財務省の永年の念願である。自民党が選挙で方針を打ち上げたのをいいことに、財務省官僚が「いいチャンスですよ。責任政党としてのアピールもできるではありませんか」と首相の耳元で優しくささやいたに違いない。今ごろ財務官僚たちは高笑いが止まらないだろう。
 何はともあれ首相が引き上げに言及したのだから、引き上げの下地はでき上がった。菅を踏み台にするという霞が関の狙いは十分達成されたわけだ。
 民主党政権をここまで窮地に追いこんだのは、霞が関、特に財務省の果たした役割が極めて大きい。民主党のいう政治主導、脱官僚がいかに形だけかが、改めてはっきりした。政治家を生かすも殺すも官僚次第の典型的な例だ。
 財務省のだめ押しは、菅政権が国家戦略局を断念したことだろう。これについて、メディアは厳しい批判を浴びせている。参院選用の「民主党マニフェスト2010」で、国家戦略室の設置は「実現したこと」の堂々2番目にあがっていた。それをもうやめるというのだから、デタラメぶりが誰にでもわかる話だ。しかも、国家戦略相の荒井聰には、不透明な事務所費問題が持ち上がり、領収証を公開したのはいいが、キャミソールなどの購入記録が含まれていた。永田町では「キャミソール荒井」のニックネームがつけられた。このまま何もせずに、大臣経費も国民負担になるのかと揶揄されている。
 国家戦略局は民主党が政権を取る際に鳴り物入りでアピールした組織だ。自公政権の経済財政諮問会議を廃止して、創設すると意気込んでいた。
 要するに、政権をとったら、官邸主導で政権運営をしようと思ったのだ。自公政権では諮問会議が官邸主導のシンボルだったので、民主党が国家戦略局をぶち上げたのは当然の成り行きだった。
 しかし、政権交代した民主党は出だしから致命的なミスを犯した。国家戦略局の法的根拠となる内閣法を改正せずに、国家戦略「室」でスタートした。これは、鳩山政権で実質的に官邸を仕切っていた当時の官房副長官・松井孝治(経産省OB)らの戦略ミスだ。当時は、衆参のねじれもなかったのだから、法律を提案すれば簡単に通ったはずだ。
 国家戦略局では予算編成方針を打ち出すことになっていたので、国家戦略局ができて一番困るのは、予算編成に口を出されたくない財務省だ。法改正がなかったことは財務省を利したが、さらに財務省は、国家戦略室のスタッフに財務官僚を大量に送り込み、事実上国家戦略室の活動をコントロールした。かくして、昨年の予算編成は、財務省主導で行われた。
 そして、これまで述べたように、今年になっても財務省主導は続き、その財務省の口車に乗って、菅は消費税10%を言い出し、参院選で惨敗。そして「衆参のねじれ」が生じた。その途端、法改正が困難になるという理由で国家戦略局の断念となったのだ。
 そうなると面白いもので、今度は、政調副会長の松井孝治が「従来の自民党内閣と同じじゃないですか。官邸主導の予算編成が国家戦略局構想のキモなんです」と批判し始めた。経産省OBとして、財務省主導による予算編成が面白くないのだろう。鳩山政権から菅政権になって、松井は官房副長官を追われたが、その代わりに財務省OBの古川元久が副長官になった。財務省主導による菅政権の運営に、松井が経産省の立場からモノを申したと考えればわかりやすい。
 ところが、政治とは皮肉なもので、最終的に財務省の思い通りになるかはわからない。財務省主導と言おうが官邸主導と言おうが、衆参ねじれという現実の中では、所詮沈みゆくタイタニック号の船上でのイス取りゲームにすぎない。(後略)

 

※バックナンバーは1冊1,100円(税別)にてご注文承ります。 本サイトの他、オンライン書店Fujisan.co.jpからもご注文いただけます。
記事検索

【記事一覧へ】