記事(一部抜粋):2010年7月掲載

連 載

【狙われれルシルバー世代】山岡俊介

被害が急増する「資産形成事犯」

「ジェイ・ブリッジ」疑惑のファンド
(前略)
 警視庁は5月末、預託金商法を展開していた「岡本倶楽部」を強制捜査した。容疑は出資法違反(預かり金の禁止)だが、当局は詐欺での立件も視野に入れて捜査している。
 岡本倶楽部は、伊豆地方を中心とする系列の11ホテルを格安で利用できるとして、05年4月から会員募集を開始した。預託金は100万円、300万円、500万円、1000万円の4種類があり、額が大きいほど無料の宿泊ポイント券を多くもらえる。
 そのポイント券を金利と考えれば、同倶楽部は5年後の預託金全額返還を謳っていたことから、1000万円コースでは年利16%という超高配当になる。100万円コースでも年利12%。
「老後の楽しみの旅行がタダでできる(1000万円コースの場合、5年で無料宿泊券が815万円分もらえる)。しかも、この宿泊券は払い戻しが利く(25%の手数料で換金できる)ので利殖になる」という触れ込みで、多くの高齢者が預託した。
 岡本倶楽部の会員は約8000名、預託総額は約200億円と見られている。だが、同倶楽部の背後には暴力団が控えており、集めた資金の大半は直ちに外部に流出、すでに運営会社には破産決定が出ている。投資資金はほとんど戻って来ないと懸念されている。
 この岡本倶楽部、すでに1年ほど前から疑惑が指摘されていた。当時、やはり暴力団筋が介入したと騒がれて事件化した「トランスデジタル」というIT系上場企業が経営破綻。そのトランス社が増資で集めた資金の一部、約18億円が、岡本倶楽部の系列会社「サリアジャパン」に流れていたことが判明したからだ。
 この時点で警察が積極的に動いて摘発していれば、被害の拡大を防ぐこともできたはずだ。
 トランス社が事件化した際、同時に岡本倶楽部も摘発のターゲットになるとの見方もあった。ところが、当局は預託金の最初の償還期である今年4月末を待ってから摘発した。
「1年どころか、もっと前から関係者の間では、岡本倶楽部には暴力団筋が介入していることは周知の事実になっていた。最初から詐欺で摘発するつもりならともかく、預託金の全額返還(元本保証)を謳っていたのだから、出資法違反ならいつでも立件できた。余りに着手が遅過ぎる」(高齢者詐欺に詳しいベテランの弁護士)
 捜査体制が拡充された一方で、こうした批判の声も挙がっているのだ。
 捜査着手の遅れを指摘されている事案は、ほかにもある。それは東証2部上場の投資会社「ジェイ・ブリッジ」(東京都墨田区)が実質的に募集していた医療再生ファンド「SRIメディカル1号ファンド」だ。
 このファンドは高齢者が被害者というわけではない。しかし上場企業の信用を背景に投資を募り、具体的な容疑もハッキリしているとされる。だとすれば、当局が真っ先に手をつけるべき案件だ。ところが現時点で捜査が進展しているという話は聞かれない。関係者の間からは「これが立件できないのなら、いくら集中取締本部が設置されたからといっても、何の期待もできない」との声すら出ているほどだ。
 ジェイ社は06年に募集を始め、総額で約41億円を集めた。そのなかには、一部理事などが資産運用で詐欺を行ったとして事件化した「神奈川歯科大学」(神奈川県横須賀市)分も7億4500万円含まれていた。
 出資者への説明では、福岡市の医療法人「杏林会」に投資をし、年15%のリターンが期待できるとされた。それは、杏林会の所有不動産をすべて買い取り、家賃収入などが入ってくることが前提になっていた。
 ところが実際には41一億円すべてが医療法人の出資持ち分の買収に費やされたのみ。不動産の買い取りまでには至らず、当然、収益があがるはずがなかった。その事実は投資家には伏せられた。
 このファンドの償還期は今年8月末。ところが、何を思ったのかジェイ社はそれに先立つこの5月、ファンドのすべての権利を22億円で別の医療法人に売却すると表明した。「これでは、出資者にはリターンがあるどころか、投資額の約半分しか戻ってこない」と大騒ぎになっている。
 実はジェイ社は、1号ファンドの募集からほどなく2号ファンドを募集した。多大な追加投資となっても病院の不動産をなんとしてでも買い取ろうとしたわけだ。しかしわずか9000万円しか集まらず、その計画も頓挫した。本来であれば、ファンドを解散し、出資者に出資金を戻すのが筋。しかしジェイ社はそうしなかったばかりか、9000万円を会社の運転資金などに流用していた疑惑が囁かれている。
 そのため、2号ファンドに七〇〇〇万円を出資した会社が、全額返還を求めてこの3月、東京地裁へ提訴。詐欺容疑での刑事告訴も検討するという事態になっている。
「ジェイ社をめぐっては、ほかにも不可解な事実が明らかになっている。ジェイ社から1号ファンドを買い取ることになった医療法人より、高値の購入希望者がいるのです。それなのに、ジェイ社は22億円での売却にこだわっている。売却先との間で何か密約があるからとしか思えません」(投資家の一人)
(後略)

 

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