記事(一部抜粋):2010年5月掲載

社会・文化

増加する「ファンド詐欺」捜査が本格化

未公開株を中心とした詐欺商法、昨年の被害金額は約1650億円

 ファンドへの投資を勧め、投資家からカネを預かりながらまともに投資せず、約束した高配当も履行せずに、消滅、逃走する悪徳商法が増加している。
 最近の流行は未公開株投資。2009年度に国民生活センターに寄せられた未公開株関連の相談は、5560件で前年度比1.8倍に急増した。
 警察では、利殖を勧めて資産を奪うこのような犯罪を「資産形成事犯」と呼んでいるが、未公開株詐欺をはじめとするこの種の悪徳商法(ファンド詐欺)を徹底的に追及する方針を固め、まず警視庁に「資産形成事犯集中取締本部」を置いた。
 山下史生・生活安全部長を本部長に、この種の捜査のベテランである生活安全課の60名の捜査員を中核に、専従捜査員を100名増員、3月30日にスタートさせた。今後は、ファンド詐欺の被害が多い大阪府、愛知県、広島県、福岡県などにも集中取締本部を置く方針である。
 これまで警察は、都道府県警が連携して「振り込め詐欺」の撲滅に力を入れてきた。組織的に犯罪を繰り返し、それが暴力団の資金源となるケースが多かったためだが、09年度の被害届は7340件で総額約96億円と、被害の件数、金額ともに減少している。一方で検挙率は77.2%と大きく上昇、集中取締の成果は確実に上がっている。
「振り込め詐欺」への警戒を解いたわけではなく、警察庁は「対策の継続」を指示しているものの、次の標的に移る時期を迎えたのは事実。昨年の資産形成事犯の摘発は29件で被害金額は約1650億円。質量ともに急増するファンド詐欺への対策が急務となった。
 ファンドという「器」を使うかどうかはともかく、この種の詐欺グループの特徴は、徹底的な電話作戦からはじまる。「商材」は、鍋釜布団から純金まで、何だっていい。ただ、豊田商事など事件となったかつてのマルチ商法への警戒から日用雑貨品や羽毛布団、金銀プラチナなど貴金属への投資には警戒感を抱く人が多い。
 そこで、最近は実態のないものへの投資を勧誘する。未公開株、FX(外為証拠金取引)、海外先物、海外資源などである。あるといえばあるが実態がつかめない。ブラジルへの鉱山投資、コートジボアールのコーヒー投資といっても見に行くわけではなく、ウソがばれる可能性はゼロに等しい。
 反面、実態のないものを信じる人は少ないから、いくら高利で誘おうとも、応じる人には限りがある。そこで利用されるのが未公開株投資である。企業だからオフイスもあれば従業員もいる。投資家が行けば丁寧に対応、安心できる。そこで「企業の成長性にかけませんか」と勧誘すると、多くの人が投資するという。
 未公開株を利用した詐欺は今にはじまったことではないが、20世紀末の新興市場の創設とベンチャーブームで、実態はなくとも企業の将来性だけで株価が急騰、未公開株が「確実な利益を生む商品」と、一時期、誤解されてから、広くこの商法が蔓延するようになった。大塚製薬のように、実際に存在する未上場の大企業株が流通、それが本物だったためにブームに火がついた面もある。
「間もなく上場、確実に儲かります。今、買っておきませんか」
 こうした電話勧誘からはじめ、言葉巧みに会社に連れ出すことができれば、間違いなく成約するということだが、最近の傾向として役割分担した「劇場型」が増えているという。
 まずX業者が、「A社の株があります。買いませんか」と勧誘する。その時は電話口ではねつけるが、次にY業者が「A社株をお持ちではありませんか。高く買い取ります」と、電話をかける。A社株に動きがあると錯覚した投資家は、次にX業者が再度の勧誘をしてきたときには、乗り易くなっている。「振り込め詐欺」の手口と似ているのは、そちらの犯罪グループが未公開株にシフトしていることの証明である。
 複雑なのは、その際、投資組合(ファンド)の形態を取り、投資家を投資組合員にして未公開株を購入させることである。業者はこれで不特定多数への出資勧誘を禁じた出資法違反をクリアできる。また、投資組合形式にすることで、「自分ひとりの考えでの解約」には制限がつく。
 ここまで型にはまれば、投資家は身動きが取れない。後は、時間をかけて収奪するだけ。解約には応じず、逆に次の投資を勧め、その間に詐欺グループは、自分で勝手に投融資、一部を国内外に隠匿、顧客がうるさくなったら「投資に失敗した」と開き直るか、一時的に逃亡、失踪する。
 インペリアルグループ、日本プライベートバンクコンサルタンツ、東京フィナンシャルグループ……。国内外への投資を勧誘、数百億円を集めたファンドは少なくない。だが、その多くは10年と持たずに消滅するか休眠状態となる。右のファンドがそうで、ファンドマネージャーは、雑誌などに採り上げられ、講演もこなし、幅広く投資を募っていた著名人だが、いまや見る影もない。(後略)

 

※バックナンバーは1冊1,100円(税別)にてご注文承ります。 本サイトの他、オンライン書店Fujisan.co.jpからもご注文いただけます。
記事検索

【記事一覧へ】