(前略)
4月上旬から、公務員制度改革法案についての法案審議がはじまった。自民党とみんなの党が共同で対案を提出し、6日の衆議院本会議で激突した。
ところが、総理大臣・鳩山は、この法案について「修正協議に応じるつもりはまったくない」と発言した。これは、行政府の長としてあり得ない発言だ。行政府として法案を出しながら国会での修正を一切拒否することは、立法府の役割を否定したに等しい。民主党政権が「国会で多数をとったのだから、何でも許される」というカン違いを続けているのは、きわめて危険なことだ。
それはともかく、政府案と対案の違いは次頁の表のとおりだ。
3番目の「天下りと給与制度」をみてほしい。今の公務員法では、各府省が独自でおこなっていた天下りあっせんを禁止する代わりに、官民人材交流センターで再就職あっせんをおこなうという仕組みである。これに対し、かつて民主党は「官民人材交流センターは役人のための天下りバンク。特別の豪華版ハローワークだ」と言い、「役人はハローワークへ行け」と言っていた。
この「役人はハローワークに行け」という言い方は人々の心をつかんだ。だからこそ、民主党がどのような改革案をつくるのか、おおいに関心をよんだのだ。
ところが今回の民主党の法案を見ると、「官民人材交流センター」の名称を「民間人材登用・再就職適正化センター」と改称するだけで、見るべきものは何もない。「役人はハローワークに行け」はどうなったのか。
そもそも、役人をハローワークへ行かせるのは難しい。人々がハローワークへ行くのは、就職情報を得るためというより、失業保険の給付を受けるためである。ところが公務員は雇用保険に加入していない。国は民間会社のように倒産しないという前提があるからだ。しかも現状では、民間会社の解雇に当たる分限免職はまずないので、雇用保険に入る理由がますますない。天下りと渡りで優雅な余生を送る役人がハローワークに行くことなど想定されていないのだ。
本当に役人をハローワークに行かせるつもりなら、第一に、役人にも雇用保険に加入させることだ。しかし雇用保険に加入させるとなると、雇用者としての国が雇用保険を負担する必要がある。はたして公務員以外の国民がそうした負担を受け入れるかどうか疑問である。もっとも、それで公務員を民間会社並みにビシバシ解雇できるようになるなら、公務員を雇用保険に入れるというのも一案である。
第2の考えは、官民人材交流センターを将来のある時期を決めて廃止することにして(サンセット方式)、同時に役人のままで居残ると給料が低くなるという仕組みを導入することだ。これは一見残酷なように見えるが、これにより現状の年功序列の賃金体系を改めることが可能になる。
ところが、民主党の法案はそのどちらでもない。結局、かつて「役人はハローワークに行け」と声を大にして言ったものの、それを実行するための法案にはなっていない。支持団体に労働組合を抱える民主党には、そもそも無理な注文なのだろう。これに対し野党側の対案はサンセット方式をとっている。第2の考え方に近く、「役人はハローワークに行け」という内容になっている。
公務員改革法案は、民主党の公務員擁護の姿勢を表しており、公務員にとってはハッピーだろうが、国民には物足りない。民主党は国会審議が長引くとまずいと強行採決を予定している。しかも強行採決を、国民の目をそらすために「事業仕分け」の日にぶつけて、カモフラージュするというプランが浮上しているる。
昨年の事業仕分けは、国民にとってはじめて見る光景で、役人がバッサバッサと切られるのが、時代劇を見ているようで気持ちよく、仕分け結果も「廃止」が連発され、削減額が加算されていったのも痛快だったようだ。このコラムでも書いたが、昔のガキ大将は弱い者を「体育館の裏に来い」と言ってボコボコにしたが、民主党の仕分け人は、役人を「体育館の中に入って来い」といってボコボコにしたのだ。
事業仕分け第2弾でははたしてどうなるか。目論みどおり、再び支持率は浮上するだろうか。
今回は、全部で104ある独立行政法人(以下、独法)のうち約半分の47法人が仕分けの対象となる。独法への補助金等は三兆円だから、対象を全部廃止すれば(本当にそうなれば高い評価だ!)1兆五500億円くらいの削減額になるだろう。しかし今回は、具体的な削減額の話題がいっこうに出てこない。天下りの人数の話も出てこない。政権を取る前の民主党は
「4500の団体(独法や公益法人など)に2万5000人が天下り、そこに国費が12兆1000億円も流されている」として、「これを切る」と豪語していた。国民はそれを望んでいたはずだが、あの言葉はどこにいったのか。(後略)