記事(一部抜粋):2010年4月掲載

社会・文化

亀井静香は今も「財政出動」を訴える

財政破綻が誰の目にも見えてきたというのに

 郵政・金融担当相の亀井静香は元警察官僚で、現役時代は連合赤軍など極左担当だったという出自、政治家となって最初に所属した国家基本問題同志会などでのタカ派的発言、許永中被告をはじめとするアングラ紳士との親密なつき合いから、「清濁併せ呑むタイプの古い政治家」と見なされている。
 そのイメージを救うのが、質問者をうまくかわす絶妙なトークと、愛嬌のある破顔一笑で、「ダーティだけど憎めない政治家」という評価がなされている。また現在、代表を務める国民新党が民主党と連立政権を組み、亀井がマスコミに登場することも多く、注目される政治家のひとりである。
 その亀井の国家運営方針は、国家社会主義的発想での弱者救済、中小企業支援の「大きくて優しい政府」である。もともと東大経済学部ではマルクス経済を学んだが、経済学や金融理論として国家が経済をリードすべきと主張しているわけではない。優勝劣敗の市場主義を憎み、倒産を防止、生活困窮者を出さず、出たら救おうとする。
 そのためには予算が必要だが、大きな政府となることを厭わない亀井は、財政出動で事業を創出、事業会社を支援、金融緩和で資金を全国にバラ撒こうとする。国家財政が危機的状況にあるのは承知のうえで、インタビューなどで積極財政の財源を問われると、「そんなことを言っとるからダメなんだ。マスコミは財務省に洗脳されとる」と喝破する。
 亀井の主張は、バブル崩壊後、一貫しており、その根底に、地元選挙区の窮乏がある。堀江貴文被告との一騎打ちで注目された亀井の選挙区は広島六区で、なかでも地元といえるのは、県の山間部にある庄原市である。見渡す限りの山に囲まれた山峡の水田地帯で亀井は生まれ、ケモノ道のようなところをひと山越え、1時間半もかけて小学校に通った。終戦まで村役場の助役だった父は、終戦後、県の嘱託として開墾事業に精力を傾け、炭だつ(炭俵)を編み、炭を売買することで現金収入を得た。
 日本経済は疲弊しているが、首都圏ではわからない困窮が地方にはあり、駅前はさびれてシャッター通りとなり、公共工事削減の影響で土建、上下水道といった地方を支える企業は倒産が相次ぎ、高齢化が進んで自治体の財政を圧迫している。
 激情家の亀井は、財源不足を理由に野放図な財政出動を批判されると、激昂して反論、その際、時に涙することがあるのは、政治への失望と生活の苦しさを亀井に訴えて、自殺した何人かの後援者の顔が脳裏をかすめるからだという。
 人情家にして差別を嫌う平等主義者。死刑廃止論者でもある。
 自民党政権は、戦後の高度成長を通して「最も成功した社会主義国家」といわれる日本をつくりあげてきたが、急速な規制緩和を認めず、酒屋、たばこ屋、米屋などの既得権益を守りながら、論理より情で動いて「落ちこぼれのない平等な社会」に、今もこだわる亀井は、自民党を離れているとはいえ、最も自民党的な保守政治家なのである。
 亀井の言うように、日本のマスコミが財務省に毒されているのは事実である。また、健全財政を掲げて財政再建に取り組み、消費税アップをもくろんだ政権は例外なく倒れるか短命で終わった。財務省のいう財政危機は事実ではあるが、そこは通貨供給量を調整、財政支援で景気回復を図れる国家の強みで、過去の不景気や一昨年のリーマン・ショック後の恐慌を乗り切ってきた。
 財務省は、国家破綻を言いつのって投資を勧める「ハルマゲドンファンド」の連中と同じじゃないか――。そんな「財務省オオカミ少年説」は根強い。
 だが、国家の力で乗り切れる段階は既に過ぎた。2010年度予算は、歳出は92兆円で税収は37兆円。国債発行額は44兆円だから借金が税収より多い。収入以上のカネを借りて生活、しかも累積債務が、収入の20年分以上というのだから人間ならば自己破産である。
 救われているのは国債を国内の金融機関が買っているからで、米国並みに半分以上が海外の投資家だと、日本の国家財政の惨状を見て、いつか雪崩を打って逃げ出し、国債価格が暴落する日がやってくる。国内で消化しているということは、コントロールが容易で、いきなりデフォルトするような危険性はないということだ。
 それでも海外の評価は、確実に下がっている。米国の格付け会社のスタンダード&プアーズは、今年1月末、日本国債の長期債務格付け見通しを、「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。昨年11月、IMF(国際通貨基金)が発表した、政府債務の対国内総生産(GDP)比推計(借金漬け指数)によると、日本は09年の時点で219%で、主要20カ国で断トツの1位だった。
 国家破綻を危惧して、みんなが声を上げはじめた。
 日本経済の強気見通しを捨てず、『1ドル200円で日本経済の夜は明ける』(講談社)などの著作で「円安回復論」を唱えていた投資アドバイザーの藤巻健史は、もうその時期は逸したとして『日本破綻 株・債券・円のトリプル安が襲う』(講談社)を書いて、目前に迫った国家の危機を訴えた。
『朝日新聞』は3月7日付1面で《悪夢「20XX年日本破綻」》と題して、財政が破綻、首相が国民に国際通貨基金(IMF)への緊急支援を要請する「近未来ルポ」を掲載した。財政破綻が誰の目にも見えてきたということで、これまでの財務省扇動説とは違う。
 そうした危機感を亀井は共有しない。20年変わらぬ財政出動を訴え、金融緩和を促し、その動きはむしろ加速している。(後略)

 

※バックナンバーは1冊1,100円(税別)にてご注文承ります。 本サイトの他、オンライン書店Fujisan.co.jpからもご注文いただけます。
記事検索

【記事一覧へ】