政 治
小沢の磁場の上でブレまくる鳩山
「マルコフ保全理論」と「小沢陰関数条件」【霞が関コンフィデンシャル】
(前略)
鳩山は最近、自らのブレについて、「物質の本質は『揺らぎ』。多くの意見を聞いて大事にする過程で、揺らぎの中で本質を見極めていくのが宇宙の真理ではないか」と禅問答のような発言をしている。宇宙人が宇宙語を話しているように聞こえる。
このブレのひどさをとらえて、鳩山の「資質」を問う声があがっているだけでなく、彼が政界に出るまでに専門としてきた分野とブレの関係まで議論され始めた。
いうまでもなく鳩山は、日本憲政史上はじめての本格的な「理系宰相」である。その経歴は輝かしく、東京大学工学部を卒業後、米国スタンフォード大学で博士号を取得している。理系宰相は世界では珍しくないが、鳩山の学歴はずば抜けている。スタンフォード大学は米国屈指の有名校で、世界の大学ランキングでもベスト5に入る。ルース駐日米国大使もスタンフォード大学の出身だが、同大使の場合は「法務博士」と肩書きは博士でも実質的には修士号レベル。鳩山は正真正銘の博士号だから、ちょっと格が違うのだ。もっとも途上国のトップが米国の大学で学位をとるのはよくあるケース。日本も途上国と見られているかもしれないが。
鳩山の博士論文は「マルコフ保全理論」というものだ。ざっくりいうと、多くの部品からできているシステムがあるとして、それぞれの部品が故障したときに、そのシステムを問題なく運営するにはどうしたらいいのかを研究する理論のことだ。
パソコンを例にとってみよう。パソコンは、多くの部品からなるハードの上にいくつかのソフトウェアがのっているシステムと考えられる。パソコンを快適に使うためには、ハードとソフトの両方がうまく機能しなければならない。パソコンに習熟していないと、ちょっと調子が悪くなっただけで、ハードもソフトもすべて取り替えてしまう。メーカーもそのほうが儲かる。
しかし、少し勉強すれば、ハードのどの部品が問題なのか、ソフトのどこが悪いかがわかる。そして悪いところだけを取り替えればいい。
マルコフ保全理論は、システム全体をよく把握していれば、部品の取り替えでシステムが最適になることを理論的に示している。
ここで、アンドレイ・マルコフの話をしなければならない。マルコフは確率論を研究したロシアの数学者だ。彼の功績を評価して、今の数学者は、あるときに起こる確率がそれ以前とはまったく無関係に起こり得ることを「マルコフ過程」と呼んでいる。
(中略)
鳩山はマルコフ過程を勉強したので、過去の問題を忘れてすぐ発言がブレる――などと分析する人もいるようだが、それはマルコフ先生に失礼だろう。鳩山も、自分のブレのせいでマルコフ先生が悪くいわれていると知ったら嘆くはずだ。
実は、鳩山の発言がブレてみえるのは、マルコフ先生のせいではなく、鳩山が長く研究してきた、オペレーション・リサーチ(OR)学のせいである。この理論によって、鳩山は自分ではまったくブレていないと思い込んでいる。外から見たらとてもそう思えないのだが、そのギャップを明かしてみよう。
ORとは、第二次世界大戦中、兵器は同一でも、その運用でうまく敵を撃退できないかを研究することで生まれた学問だ。ドイツ軍の空爆を警戒する英国が、レーダーの性能はすぐに向上しないが、それをどのように配備すれば、空爆にうまく対処できるかを研究したのだ。ある制約条件の下で、最大効果をあげるための手法を導き出す実践的な問題対処学といえる。
これを普天間問題でみてみよう。以下に述べることは、もちろん、実際に鳩山が考えているものかどうかはわからない。あくまで「たとえ」である。
制約条件は、(1)国民が納得すること、(2)沖縄県民が納得すること、(3)連立与党とくに社民党が納得すること、(4)米軍が納得すること――の4つがあるが、このほかに(5)幹事長・小沢一郎が納得すること――という「陰関数条件」も重要だ。そして、何を最大化するかといえば、参院選の勝利の確率である。
こう考えれば、移設先の決定時期を5月に設定したのは、選挙を考慮すれば当然ということになる。また、普天間の現状維持という解決策はありえない。一切白紙で、すべての選択肢を考慮するとの鳩山発言はもっともだ。
ORを使うと、(1)〜(5)を満たす案は2つありうる。(後略)