記事(一部抜粋):2010年3月掲載

経 済

日本の「失われた10年」を歩む

バブル崩壊後の米国と欧州【証券マン「オフレコ」座談会】

B 先月とは打って変わって、株式市場は弱気一色になってしまったね。
C オバマ大統領が発表した新金融規制いわゆる「ボルカー・ルール」(銀行の自己勘定取引の禁止など)が出てきたあたりから、相場の流れが世界的にガラリと変わった。これが1月21日。その2日前に、米民主党はマサチューセッツ州の上院補欠選挙でまさかの敗北を喫した。これがオバマ政権の「豹変の引き金」と言われている。
A ボルカー・ルールが発表された日は、トヨタがアクセルペダル問題で初めて大量リコールを発表した日でもある。米運輸省の執拗なトヨタ攻撃は、フロアマット問題が表面化した去年の秋から始まっていたようだね。
B その問題はあとで検証するとして、今回の世界同時株安はギリシャやポルトガルの財政不安が一番大きかったんじゃないかな。
A ポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペインの頭文字をとって「PIGS」といわれている財政不安問題だね。中でも一番ひどいギリシャに関しては、EU(欧州連合)が支援することで合意したけど、具体策が何も決まってない。だからユーロも主要通貨に対してまったく下げ止まらない。対円では年初に133円だったものが直近で121台。対ドルでも1割近く下落している。
B 聞くところによると、政府系ファンドや米カルパースなどの年金資金が、ユーロ建ての債券や株を売って、ドル建て資産に乗り換える動きを加速させているという。ドルを売って外貨建て資産で運用するドルキャリートレードを活発にやってきたヘッジファンドも、新金融規制で一気に巻き戻しの動きに出て、ドル買いに走ったそうだ。そのおかげで、対ドルでは円高に歯止めがかかった。1ドル=90円台に乗せてきたし。  
C 確かに、PIGSの問題は国際金融不安を再燃させるような大問題ではあるけど、住宅バブル崩壊の傷は米国よりもEUの方がはるかに深いことは、これまでもさんざん議論されてきた。リーマン・ショック前に、EUの金融機関は悪名高き証券化商品を米国の4倍も買っていたといわれている。ただEUは、加盟時に財政赤字の対GDP比を3%以内にするよう義務付けてきたから、加盟国は日本や米国に比べて財政の健全性はかなり高いし、政府の債務残高も相当少ない。
A そこが問題になるんじゃないかと思って調べたんだけど、CIAの資料によると、対GDP比の債務残高は日本が09年時点で192%あるのに対して、EUの中で最も悪化したイタリアが115%、ギリシャが108%、ベルギー99%、フランス79%、ドイツ77%、ポルトガル75%、アイルランド63%、スペイン59%の順。CIAの資料だから米国が抜けてるんだけど、他の資料によると米国はだいたいフランスと同じで78%。ただし、ファニーメイなどの住宅公社が発行した債券や保証債務を米政府が引き継ぐとなれば、米国の債務残高は現状の1.5倍くらいにはなる。そうなると、先進国ではEUの財政の健全性が相対的に上がることになるんだけど、結局、90年代の「失われた10年」で日本の累積債務が急増したように、住宅バブルが崩壊した欧州も米国も、これから日本の失われた10年と似たような状況に直面するんじゃないかな。
B よく、PIGS問題は80年代前半の南米の状況に似ていると言われる。当時の南米の財政不安は、日本の株式市場にほとんど影響がなかった。でも、今回はEU全体の問題になってくるから、株価へのマイナスのインパクトも大きいような気がする。
A EUがPIGS問題をEU全体の問題として支援パッケージをまとめれば、財政の健全性という点からすると、米国が見放した80年代の南米のようにはならないと思う。でも、不安がくすぶるのは間違いないだろうね。
C ユーロに何年もの間、相当な下落圧力がかかる。今は1ユーロ=120で踏ん張っているけど、リーマン・ショック直後には113円台まで急落した。おもしろいことに、リーマン・ショック直前に170円の高値をつけていたユーロは今回110円台まで急落している。12年前のユーロ発足直前には実質164円まで上昇して、2000年のITバブル崩壊後に91円台まで急落している。「歴史は繰り返す」で、今回もユーロが対円で90円台まで下落する可能性は大きいと思う。
B そうなると、輸出企業の業績も厳しいね。ようやく回復軌道に乗ったと思ったら、今度はトヨタ問題で稼ぎ頭の自動車関連が大打撃だし。
A 米政府のトヨタ叩きは根が深い。本誌が発売される頃には明らかになってるだろうけど、米運輸当局は、一連の大規模リコールの原因はフロアマットでもアクセルペダルでもブレーキでもないと考えているようだ。2月24日に延期された下院の公聴会では、初めからエンジンの電子制御の不具合が主要テーマになると見られている。
B それってどういうこと?
A つまり、今までのリコールは全部、的外れだったってこと。もし、米議会でエンジンの電子制御システム(ETCS)に原因があると認定されれば、リコールの規模はこれまで以上に膨れ上がる。
C エンジンの電子制御は自動車メーカーの根幹に関わる技術だね。(後略)

 

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