記事(一部抜粋):2010年3月掲載

政 治

うろたえる菅、ギラギラする菅

「消費税増税」議論の前倒し発言【霞が関コンフィデンシャル】

 1月26日、参議院予算委員会の異様な光景はテレビで全国に放映された。副総理・財務相の菅直人に、財務官僚OBの財務省政務官・大串博志らが近寄りいろいろと説明しているが、いっこうに埒があかず、速記がたびたび中断される。
 菅「1兆円の予算を使って1兆円の効果しかない公共事業はだめだ」
 林芳正委員(自民党)「では子ども手当の乗数効果はどれぐらいか」
 長妻昭厚労相「子ども手当の効果は1兆円程度」
 林「その効果を財政支出で割れば乗数効果は出るだろう」
 菅「子ども手当の(消費に回る)消費性向は0.7程度」
 議事が止まり官僚と相談の後、
 林「消費性向と乗数効果の違いを説明して」
 菅「乗数効果の詳細な計算はしていない」
 林「計算すればわかるだろう。消費性向と乗数効果の関係は?」
 菅「一兆円の事業にカネを使ったとき1.3兆円の効果があれば、乗数効果は1.3……」
 うろたえる菅に、昔エイズ問題で脚光を浴びた面影はない。あれほど反官僚であったのに、官僚に助けられながらやっと立っている状態だった。
 2月2日の代表質問で、みんなの党代表・渡辺喜美は「子ども手当の効果があるのか分からず、予算を提出するような内閣に政権を担当する資格なし」とし、こども手当の乗数効果を質問した。
 そのときは、菅は「消費性向七割とし、増加額1.3兆円のうち7割の1兆円のGDP押し上げ効果がある。しかし、モデルでの厳密な推計は困難」と官僚が用意した紙を棒読みした。しかし、この答弁は、子ども手当の乗数効果を、子ども手当を実施した場合のGDP押し上げ効果という一般的な意味から、聞いてもいない内閣府モデル上での厳密な乗数効果にすり替えたものだった。菅がこうした官僚の詭弁を弄するのをテレビで見て、忍びなく思った人も多いだろう。
 国会審議で「乗数効果」はよくある質問だ。過去10年間、乗数効果に関する質疑は104件もある。重要閣僚でありながら、こうした頻出質問にきちんと答えられないとは、かなり情けない。
(中略)
 財務大臣がここまで経済に弱いと、国会運営上、予算の年度内通過は最優先事項なので、経済・財政のレクチャーを財務省官僚に頼らざるを得ない。菅は経済財政担当大臣も兼務しているから、経済政策担当部局の内閣府にレクを頼むという手もあるが、内閣府と財務省では圧倒的にパワーの差がある。もし内閣府が菅のレクに時間をとったとしても、結局、内閣府に出向している財務官僚が経済のレクをするので、菅は財務省の手から逃れることはできない。
 そうなると、菅は財務官僚の術中にはまることになる。政治家は一般に自分の発言に縛られる。というのは、政治家は自身の言動がブレるのを極度に恐れるので、いったん公の場で発言したことは訂正しないし、できないからだ。そこで財務官僚は、国会や国際会議などの公の場での財務大臣の発言を、財務省にとって有利なように少しずつ積み重ねていくマヌーヴァ(策略)を弄していく。(後略)

 

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