記事(一部抜粋):2010年2月掲載

社会・文化

狙いは「小沢逮捕」ただ一点 政治権力と捜査権力との「戦争」が始まった

(前略)この「検察VS民主党」の構図は、「対立」や「ケンカ」といった生易しいものではない。政治権力と捜査権力との「戦争」である。後述するように特捜部は、「小沢逮捕」を視野に入れた捜査を進めている。
 ここまで問題がこじれた背景には、「霞が関」の他の官僚機構同様、「法務・検察」にも制度疲労があるとして「改革」を模索していた民主党に対する基本的な不快感が、法務・検察の側にある。
 西松建設事件をきっかけに、特捜部は政治資金規正法を利用して小沢の政治団体の「陸山会」に切り込み、昨年3月、会計責任者の秘書・大久保隆規を逮捕した。
 この時、総選挙前の「国策捜査」と民主党は反発、その声をかき消し、捜査が正当なものであることを示すためにも、検察は「陸山会の政治資金は、収支報告書にすべてキッチリと公開している」という小沢の弁を、覆さなくてはならなかった。
 ここが恐らく分岐点だった。
 検事総長の樋渡利秋を始め検察首脳は、政権与党との「ガチンコ勝負」は避けたかった。8月末の総選挙に影響を与えないようにという配慮のもと、胆沢ダムの受注業者の事情聴取を命じたのは、「大久保公判」のためである。起訴は、西松建設のダミー団体からの違法献金に関するものだったが、その背景に「天の声」を発して公共工事を仕切る小沢事務所の力があることを証明することで、公判維持に役立たせようとした。
 この時点で、世田谷秘書宅に絡む「四億円の不記載」という「石川事件」にまで発展させる気は、少なくとも検察首脳にはなかった。ところが、小沢とその周辺から伝わってくる反発は予想以上だった。
 もともと民主党は、政治主導の「霞が関改革」を訴えており、事務次官制度の廃止を視野に、名実ともに「政」が「官」を支配しようとした。そうした意識を持つだけに、小沢周辺は検察の強引な捜査に怒った。
 そのうえで、検事総長の国会同意人事制、法務相に与えられている「指揮権」の有効的発動、各都道府県の地検検事正の選挙制、取り調べを録音録画する可視化法案など、検察が容認できない「改革」に踏み切ることを本気で考えたのである。
 こうした小沢周辺の動静が検察に伝わるにつれ、捜査現場には「小沢を許せない!」という声が広がるようになる。それが夏の総選挙での民主党大勝を受け、「捜査終結」と考えていた検察首脳の意向を無視、マスコミに情報リーク、それに触発された市民団体の告発を受理する形での再捜査へとつながる。年末には「石川と大久保の在宅起訴」という方針が決まり、応援検事を地方から呼んで、ゼネコン、サブコンを再捜査する体制が整った。
 ここまで特捜部を「やる気」にさせたのは、第一に検察の組織防衛のためである。検事総長は4代先まで決まっているという強固な人事ピラミッドは、法務省という行政組織の一員ながら、検察庁という「政官財」を監視する組織に相応しい「縦の命令系統」を可能にした。
 しかも、行政のトップである法務事務次官が検事総長より序列が下という上下関係は、検察庁の独立性を担保する。この「法と正義」を実行するにふさわしい組織に、手を突っ込もうとした小沢民主党が許せない。
 第2に、小沢が築き上げた集金システムの悪質性である。これまでの検察捜査とそれを受けたマスコミ報道により、さまざまな事実が明らかになった。
 小沢事務所は鹿島東北支店と結託、公共工事の受注業者から「表」と「裏」で献金を集めていたのだ。「談合のドン」と呼ばれた鹿島東北支店幹部のIが調整、小沢事務所が承認を与えるという構図。「表」は、政治献金やパーティー券の購入で、「大久保事件」では、政治資金収支報告書に記載されている西松建設のダミー団体からの献金が違法とされた。
 今年に入ってからの「石川事件」は、「裏」の献金を使って世田谷の秘書宅を購入、4億円を銀行から借り入れることで辻褄を合わせようとしたというもの。「大久保事件」より悪質だが、その分、立件が難しい。
 とりあえず石川、大久保、池田光智と3人の秘書・元秘書を逮捕しているものの、「4億円を記載していなかった」というものであり、「うっかりミス」のレベルである。この事件の悪質性を国民に認識させるには、「裏」で集めた献金で不動産を取得、それに関与、報告を受けて指示を出したのが小沢だということ突き止め、立件しなければならない。
 そのために「無理筋」でも3人を逮捕、同時に、増員した検事なども使って総力でゼネコンやサブコンの政界担当者の事情聴取を続け、何回、何十回と呼ぶことで根負けさせ、「裏ガネを運びました」という供述を取り、それを三人にぶつけて認めさせ、「公共工事で建てた秘書宅」というシナリオを完成させなければならない。(後略)

 

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