記事(一部抜粋):2010年2月掲載

経 済

打ち出の小槌「政投銀」の憂色

JALと同様、政官に弄ばれ【金融ジャーナリスト匿名座談会】

(前略)
C それにしてもこの政投銀という政府系銀行は、日本開発銀行(開銀)時代からどこか悲劇的だ。プロパー職員のなかには居たたまれない気分の人が少なくないのではないかな。政府系だから仕方がないといえばそれまでだけど、政治というか、官僚というか、外部に翻弄され続けてきたからね。
A 確かにそうだ。そもそもJALは、開銀ではなく、日本輸出入銀行(輸銀)をメインバンクにしていた。ところが、いつのまにか開銀が輸銀の融資を肩代わりする形でメインバンクになった。今、思えば、不幸はこのメインバンク化から始まったことになるね。
B 開銀という組織がそうしたというよりも、当時の総裁、つまり、大蔵省から天下った元事務次官の総裁がほとんど独断で決めたことだった。
C 旧日本開発銀行法は、総裁が最高決定権限を有すると規定されていた。だから独断専行の人物が総裁に天下ると、そういうことが度々起きた。
A JALだけではないよ。トップが独断専行で肩入れし、その結果、巨額の損失処理に見舞われることになった案件は。
B そういえば、ネット銀行にも手を出したことがあったね。
C ああ。あの評判の悪かったネット銀行のことね(笑)。政投銀は2年前に、ようやく株式などを他社に売却して手を切ることができたが、これもひどい経緯だった。ふつうの民間企業なら、経営問題に発展していた案件だ。
B ほかにも暴力団がらみの不動産関連案件など、目を覆いたくなるようなひどい案件があったが、これもトップの独断専行が原因だった。
A そうした問題案件はすべて損失処理されるわけだが、責任問題には発展しなかった。なぜだろう。
B 政投銀に限ったことではないが、政府系金融機関は主要官庁の実質的な子会社だからだ。民間企業でも、親会社を追い出されて子会社の社長になった人物が「親会社の社長など見返してやる」とつまらないやる気を起こして次々に失敗することがある。今は随分と減ったけど、昔はよくあったよ、銀行の頭取レースに敗れて子会社のノンバンク社長になり、暴走したケースが(笑)。それでも司直のメスが入るなど、よほどのことがない限り、経営責任は問われなかった。それと同じだよ。
A 政投銀の今の室伏稔社長は民間企業の出身だが、高齢ということもあって、実質的には、元財務事務次官の藤井秀人副社長が仕切っている。財務省支配に変わりはないと言っていい。
C 政策金融機関なのだから、当たり前だよね。
A そう、当たり前だ。それを認めていながら、天下りの根絶などと言っている鳩山政権がパラノイヤなんだ。
C 日本郵政のトップ人事でもそうだったね。ちなみに、小沢一郎民主党幹事長は、不透明な資金問題を東京地検に調べられるや、それに抵抗して「霞が関との闘い」を公言しているが、小沢氏は官僚とねちっこいつき合いをしている古い政治体質の持ち主だ。今さら何を言っているのだろうと思うよ。
B 信用収縮が発生した際に政投銀がJALに行った緊急融資も、財務省の勝栄二郎主計局長の一声で決まっている。
A 確かに資金繰りが危うくなったのは間違いないし、緊急事態だったのは認めるけど、要するに、政投銀の経営決定メカニズムとはそういうものだということ。
C もうひとつつけ加えると、政投銀には、藤井副社長のほかに、財務省で関税局長をやった竹内洋常務がいる。彼は、銀行内部のことにはあまり関わらず、仕事はもっぱら政界対応だ。自民党政権末期には、民主党に接近して、パイプをつくるのに熱心に動いてた。
A しかし、今回のJALの処理に関しては、財務省も最終的には政治に屈したという印象だ。
B そうかもしれない。途中までは財務省ペースだったが、最後にイレギュラーな動きになったからね。
A 昨年末のことだが、突然、管直人副総理がしゃしゃり出てきたのは財務省にとって想定外のことだったろう。
C 管副総理はJALの法的整理を強硬に主張した。これに政投銀が、藤井副社長を筆頭に抵抗した。追加融資までしたのに、法的整理で債権放棄を余儀なくされれば、経営責任を問われることになるからだ。
B 経営責任だけでなく、財務省の責任問題になりかねない。
A それに対して、管副総理は藤井副社長の更迭をちらつかせた。そこに一部の新聞などが悪乗りして、「藤井副社長の更迭も」と書き立てた。それで政投銀は崩れてしまったわけだ。(後略)

 

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