政 治
官のお遊び作文に菅の経済音痴ぶり
「新成長戦略」のトンチンカン【霞が関コンフィデンシャル】
(前略)年末ぎりぎりの12月30日、鳩山政権がようやく発表した成長戦略。その名を「新成長戦略(基本方針)〜輝きのある日本へ〜」といい、2020年度までの国内総生産(GDP)を名目で平均3%、物価の影響を除く実質で2%成長させ、名目GDPは現在の1.4倍の650兆円に増やすという内容だ。ポイントは、具体的な成長産業をターゲットに掲げ、その産業に各種の助成措置を行う「日本的産業政策」である。今回の民主党の成長戦略では、環境・エネルギー、健康、観光などが成長産業としてターゲットになっている。
だが、「新」成長戦略という名前とは裏腹にまったく新味がない。正月のテレビ番組で、自民党のある政治家は、民主党の成長戦略は自民党のものと内容が同じであると言っていた。それはそうだろう。民主党の成長戦略を下書きしたのは、経産省の役人を中心とする霞が関官僚だからだ。そのため、内容は、自公政権時代のものとそっくり。当時も、霞が関官僚に丸投げして、成長戦略がつくられていた。
ただし、民主党が格差を拡大したとして攻撃している小泉政権時代の経済財政担当相・竹中平蔵は成長戦略をつくらなかった。これは意外である。竹中は、いいか悪いかの評価は別として、強烈な個性もあり学者としてのプライドもあったため、政策を官僚に丸投げすることはなかったからだ。竹中の後、経済財政担当相に就いた与謝野馨や大田弘子は官僚に政策作成を依存していたためなのか、成長戦略をつくっている。
実は、成長戦略は、霞が関官僚にとって単に予算を取ってくるための手段であって、本当にそれで経済が成長するかなんていうのは、どうでもいいのだ。
だから、自公政権時代も、成長戦略はたびたびつくられてきたが、経産省役人などの霞が関官僚の言葉遊びで、まともに実行されたためしがない。
政権は交代したが、出てきたものは、経産省政務官・近藤洋介が原案をつくり、菅直人が手を加えたらしいが、内容を見れば、経産省役人お得意のお遊びそのものだ。
『クルーグマン教授の経済入門』(ポール・クルーグマン著)によれば、成長戦略は経済学では解がわからないとされる超難問だ。経済学は、有限な資源から、いかに富を生産し配分するかを研究する学問で、究極の課題は貧困撲滅。もし経済が確実に成長するという方法がわかると、貧困はなくなり、経済学も不要になる。今のところ、人類の誰もがなしえない夢である。
だから、民主も自民も関係なく、政治家というものは成長戦略を喋りたがるのだ。政治家は夢を売るのが商売といえば、わかりやすい。しかも、正しい解がなければ、何を言ってもウソにはならない。そこに官僚が産業政策という名目で付け入り、予算を手にできる。一方で、政治家のほうにも選挙対策として個別産業・企業とパイプを持つというギブ・アンド・テイクの関係ができる。
そういえば、総理の鳩山由紀夫が国連で大見得を切ったCO2削減も2020年が目標だったが、今回の成長戦略の目標年も同じ2020年。誰も予想できない将来の話で、その時には政治家も官僚も責任はとらないですむ。
とはいえ、これまでの研究や経験でわかっていることもある。世界各国の歴史を見ると、国がある特定産業をターゲットにして成長を促すと、結果的にダメになるということだ。日本の戦後経済を見ても、通産省(現経産省)がターゲットにした石油産業、航空機・宇宙産業などはことごとく失敗している。
逆に、産業政策に従わなかった自動車などは、世界との競争の荒波にもまれながら、日本のリーディング産業に成長した。日本の20の成功産業について調査した一橋大学教授・竹内弘高の研究でも、政府の役割は皆無だったようだ。
要するに、政府に産業の将来を見極める「千里眼」を期待しても無駄だということ。長期的に強い産業というのは、国が選別して指導するのではなく、良好なマクロ経済環境のもとで自然発生的に生まれるものだ。
この点、鳩山政権は、脱官僚依存を標榜するものの、この成長戦略では暗黙のうちに官僚の全知全能を信じていて、気の毒なほど「ナイーブ」(英語本来の否定的な意味)である。
こうして官僚におんぶにだっこの政策では、菅のイメージダウンになるし、民主党の脱官僚依存の看板が泣くというものだ。
菅が強調していた「第三の道」は、一体誰がこんなことを吹き込んだのだろうか。経済官僚からの入れ知恵ならあまりにセンスがなさ過ぎる。経済学者からみれば、初めて聞く概念でびっくりだろう。これで、菅が、しばらく「経済音痴」といわれるのは間違いないくらいの、大ヒット、いや見事な三振カラ振りである。(後略)