(前略)こうした生ぬるい批判がなされる一方で、民主党シンパのジャーナリストは、必死になって事業仕分けの援護射撃をしている。
たとえば上杉隆氏は『ダイヤモンドオンライン』に連載している『週刊上杉』の11月19日付で「事業仕分けへの批判に異議あり!」のタイトルで擁護論を展開している(http://diamond.jp/series/uesugi/10102/)。
上杉氏は、メディアの批判は(1)公開処刑、(2)削減額が少ない、(3)財務省主導――の3点に集約されるとして、それに反論している。たとえば削減額が少ないという批判に対しては《そもそも今回の予算案は、自民党政権下で編まれたものであり、通常ならばほとんど削減の余地もなく、ほぼ要求どおりに認められたものだ》《テレビ・コメンテーターの中には、「わずか1兆円」というような発言をする者もいる、1兆円は決して小さな金額ではないことを明言しよう。元来、減る予定のなかった予算を削ったのであるのだから、そこは素直に評価してもいいのではないか》と擁護している。
まったくの事実誤認である。これだけで上杉氏のジャーナリストとしての資質が疑われる。
まず今回の事業仕分けの対象となっているのは、自民党政権ではなく民主党政権になって行われた概算要求である。自民党政権での概算要求は2009年8月末に締め切られ、すでに提出された。その概算要求総額は、シーリングがはめられていたために88兆円だった。その後9月16日に政権が交代し、民主党政権のもとで概算要求が10月15日の締め切りで改めて出されている。そうでなければ、民主党の「子ども手当」などは予算化できない。しかも、民主党政権ではシーリングがないので、概算要求総額は95兆円に上った。自民党政権時代との差額七兆円は、政策内容の差とシーリングの有無が主な原因だ。
この膨れあがった概算要求を切るために、事業仕分けが行われたのである。上杉氏は《通常ならばほとんど削減の余地もなく、ほぼ要求どおりに認められたものだ》《減る予定のなかった予算を削った》というが、とんでもない誤りである。正しく書くなら、《通常なら要求せず、だから削る必要などなかったものを、要求させておいて削った》、もしくは《シーリングがなくて膨れあがった額の、ほんの一部を削った》である。それを《素直に評価》しろといっても無理な相談だ。
事業仕分けはこのように進行した。事業ごとに1時間の枠がはめられ、まず、要求側の各省局長クラスが概算要求内容を説明し、次に財務省主計局担当主計官が、全体進行シナリオといわれる「事業シート」に沿ってムダや改善点を指摘する。ここまでが10分程度。その後、「とりまとめ役」の枝野幸男衆院議員や蓮舫参院議員ら、官職名なしの無権限国会議員が議論の口火を切り、民間からの仕分け人が加勢する。要求側の局長クラスは防戦するが、ほとんどは切られて終わる、というのが一般的なパターンだ。
悪代官が善玉ヒーローに斬って捨てられる――この大芝居に、観客(マスコミや国民)は拍手喝采したというのが、この事業仕分けに対する大方の見立てだろう。
だが大芝居の舞台裏をのぞいてみると、そんな単純な勧善懲悪とはいかない、どろどろとした思惑が渦巻いている。
民主党政権になって、予算要求のシーリングがなくなったので、要求官庁は民主党の政務三役の指示のもと、係長レベルのアイデアで思いっきり予算要求をした。そうしたら、財務省主計局から「体育館の中に来い」と言われた。
要求官庁の民主党議員である政務三役は、官僚に「お前たちが行け。要求したのはお前たちだろ」と責任を押し付け、「官僚主導の概算要求だ」と非難した。上司の政務三役には逆らえない官僚たちは渋々、体育館に向かった。
体育館の中に財務省の主計官がいるのはわかっていたが、着いてみると枝野氏や蓮舫氏など官職名なしの国会議員と、外野の民間人がいた。そこはどういうわけか「政治主導」の場で、官僚たちは、権限のない国会議員らにボコボコにされた――。
事業仕分けが財務省主導というのは当たり前で、もし体育館に財務省の担当者がいないと、要求官庁の官僚たちは出向く理由がなくなってしまう。官職名なしの国会議員と民間人しかいなければ、極端な例かもしれないが、形式的には、仕事に無関係な人と喫茶店でおしゃべりしているのと同じになってしまう。
要求官庁の官僚たちの本音はこうだ。「どうせ切るなら、前のようにシーリングをつくってくださいよ。公開処刑されるのがわかっていたら概算要求などしませんでしたよ。政務三役に言われて要求しただけで、他意はありませんよ」。
シーリングがあれば要求しなかったものを、公開の場でつぶしただけの政治ショー。要求官庁側では、政治家の政務三役が「官僚主導だ」と言って逃げ、行政刷新会議の側では、政治家は官職名なしでも「政治主導だ」と言ってパワフルに暴れまくった。官僚をボコボコにして、さぞやいい気分だろう。
この裏舞台の仕掛け人は、進行シナリオを書いた財務省である。協力した民間人も、無邪気に事業仕分けを擁護して、質が悪い。財務省はシーリングをつくらない段階で、もしシーリングがあれば要求しなかったであろう事業のおおよその見当がつく。それを仕分け対象にしたのだ。
上杉氏はここでも誤解している。
《確かに、447事業は財務省の選んだものかもしれない。だが今後は、残りの約2000事業も対象となる可能性は否定できず……》と氏は書くが、仕分け対象はシーリングのはみ出し要求部分であり、そうでない事業には簡単に手を付けるわけがない。(後略)