24時間利用可能な国際ハブ空港にしようと、新滑走路の建設工事が急ピッチで進む羽田空港で、スーパーゼネコンの鹿島が、建設工事現場から出た砂利や残土を埋め立て資材に転用、差額の約500万円を騙し取ったという詐欺容疑の捜査が進んでいる。
被害者は国土交通省、すなわち国である。加害者は鹿島。国交省は、11月10日、容疑者不詳で被害届を警視庁に提出、組織犯罪対策3課の捜査は大詰めを迎えているが、鹿島は故意に不法投棄した「詐欺犯」ではなく、「連絡ミスによる下請け業者の勘違い」と主張、防戦に必死だ。
鹿島が転用したのは、同社が横浜市中区の「かなざわドームシアター」跡地に建設するビルの工事現場から出た砂利や残土である。採取されたのは約5000立方メートル。そのうちの約1000立方メートルを、羽田新滑走路接岸部工事の海底部分にあたる「築堤材」として転用した。
1000立方メートルといえば、10トントラックで水を運んだとして100台分。搭載時に隙間が多く、水より比重の軽い砂利などでは150台分になるという。それだけの量を、鹿島の工事責任者が、建設現場から出た残土であることを気づかずに投棄を認めるのは、ありえないことだという。
そこで、新滑走路の接続部護岸工事を担当する鹿島のA工区長が、確信犯として「転用」を認めたのではないかという疑いが浮上、組対3課の捜査は、その線に沿って進められている。また、暴力団などの組織暴力を担当する組対3課が手がけることになったのは、「残土転用」を斡旋した横浜市中区の建設ブローカーS企画のS社長が元暴力団関係者で、S社長とA工区長との支払いをめぐるトラブルが、事件発覚につながったという。
「国家への詐欺」という言葉はいかめしいが、約500万円という被害金額はいかにも少なく、故意かミスかはともかく、大きな犯罪ではないように思われる。しかし横浜の工事業者のなかには、S社長が次のように怒りをぶちまけるのを聞いた人がいる。
「俺は、残土を運ぶようにという鹿島の指示に従っただけ。『転用』はあの工区だけじゃない。組織的に行われている」
「組織的」という言葉に、鹿島は過敏に反応する。
事件をスクープしたのは『産経新聞』(10月24日付)だが、1面トップという扱いに加え、「組織的」という言葉はないにせよ「警視庁組織犯罪対策3課は、鹿島側が転用を事前に把握し、国交省から受注額の差額をだまし取ったとみて」と記述していることから、少なくとも「ミス」とは捉えず、鹿島全体の問題としているのは明らかだ。
鹿島は産経新聞社に猛烈に抗議、関係各所に「一部新聞等の報道について」という文書を送りつけた。
しかし、組対3の捜査は、鹿島の「組織ぐるみ」も視野に入れており、捜査員が広域暴力団住吉会系元幹部の写真を手に聞き込みを続けている。鹿島と、この暴力団元幹部との間に何があったのか。
「S社長とトラブルになった時、鹿島側の代理人のような形で登場したのが住吉会系の元幹部でした。老舗組織の総長を務めていて、鹿島に人脈があるとかでS社長との窓口となっていた。新滑走路の総工事責任者はM専務執行役ですが、M専務とも面識があったようです。ただ、9月に住吉会を破門されており、この事件の影響ではないかといわれています」(事情通)
国交省が被害届を出した以上、事件化は確実である。1、単純な連絡ミスによる転用、2、工費を浮かせるためのA工区長の個人犯罪でS社長が共犯、3、M専務が黙認する組織ぐるみの犯罪――という3通りのシナリオが考えられるし、最初は個人犯罪から入って、大きく展開することもある。
ただ、それは捜査当局に委ねるとして、指摘すべきは、鹿島がこの新滑走路で「500万円の詐欺」どころではない大罪を犯していることだ。 (後略)