(前略)
事件のあらましは、次のようなものだ。今年5月26日、福永社長と3人のサッポロ関係者は、郡山の特約店Mの社長を接待した後、問題の料理屋に出向き生ビールの中ジョッキを2、3杯飲んだ。その時、福永社長と一緒にいたのは、サッポロビールのF常務、福島支社長のH、東北本部本部長のOだといわれている。福永社長は料理屋を出る際、見送りにきた女将の頬を両手ではさむようにして叩き、耳に怪我をさせた。女将はその後、耳が聞こえづらくなるなどの症状が残った。福永社長は謝罪したが、誠意が感じられないとして女将が9月に郡山署に告訴した――。
ある特約店幹部によれば、この事件はサッポロにとって2つの面で致命的だという。
「1つにはサッポロの最後の牙城である東北で問題を起こしてしまったこと。もう1つは、営業部門の取りまとめ役である福永社長の発言力が低下することで、経理・総務と営業の対立が激化する可能性が高いことです」
また、別の特約店幹部はこう指摘する。
「おそらく福永社長は飲みながら荒れていたのでしょう。気持ちはよく分かる。サントリーに業界3位の座を奪われ、スーパーやコンビにでは、サッポロの商品を置いてくれないところもある。テコ入れをしようにも、メーンバンクだった富士銀行が合併でみずほ銀行となり、関係が希薄化、手厚い支援は受けられない。今はシェア12%割れの恐怖に脅える日々でしょう。サッポロ系卸としても、業績悪化で暴れたくなる心境です」
(中略)
かつてはシェア10%でも何とか黒字を達成できたが、ビール類の市場はいまや縮小の一途。総出荷量は1994年の725万キロ・リットルから08年には611万キロ・リットルへと16%も減少。少子高齢化と若者のアルコール離れで、景気後退以前から市場の縮小傾向が続いている。市場の低迷を跳ね返そうと開発した低価格の発泡酒や第3のビールに需要がシフトした結果、売り上げ規模も減少するばかり。ビール大手5社(オリオンビールを含む)が11月12日に発表した今年10月のビール類(ビール、発泡酒、第3のビール)の出荷量(課税ベース)は、前年同月比4.3%減と、10月としては統計を取り始めた92年以降で最低となった。
そうしたことから現在は、最低でもシェアが12%ないと黒字にならないといわれている。サッポロは、サントリーの苦渋の45年や、アサヒが崩壊の瀬戸際まで追い詰められた当時と同じような状況に転落しようとしている。
さらに、サッポロがかつてのアサヒやサントリーと大きく違うのは、米系ファンド「スティール・パートナーズ」に約19%の株式を買い占められ、「企業価値の向上」を求められていることだ。スティールは、「経営陣は相変わらず、緊急事態であるとの意識に欠け、重要な経営目標を達成することすらできない」と非難している。
しかし、サッポロHDは二期連続で増益を達成している。ビール系飲料はサントリーに抜かれて4位に転落したが、08年12月期は7.7%の減収ながら営業利益は18.8%増の145億円を確保、配当も5円から7円に引き上げている。
そのため株主総会を前にした今年2月、サッポロHDは、現経営陣の退任を求めるスティールに対し、2期連続の増益を達成したとの反論書簡を送付、一般株主にも手紙やインターネットで宣伝した。だか、これからも増益が期待できるかといえば、見通しは暗い。
なぜなら、前期の最終利益76.4億円、一株利益19.49円は、資産売却でかさ上げされた結果でしかないからだ。
業績の悪化懸念に追い討ちをかけるのが、社内の内部抗争だ。(後略)