年間5000万円内外の個人献金の大半が虚偽記載で、資金の出所は首相・鳩山由紀夫個人か、母・安子をはじめとする鳩山家のものではないかとする政治資金規正法違反捜査は、東京地検特捜部が献金者はもちろん虚偽記載をした元公設第一秘書・勝場啓二など主要人物を次々に呼んで参考人聴取、急ピッチで進められている。
「首相の犯罪」ではあるが、原資は「自分のカネ」であって、業者からのウラ献金などと違い悪質性はない。また、虚偽記載の詳細を鳩山が認識していたとは思えない。そこで検察首脳は、東京地検特捜部に「年内決着」を求めており、政治団体の「友愛政経懇話会」で事務担当だった秘書・勝場元の在宅起訴で終結する可能性が高いという。
むろん捜査の過程で会計責任者を務める政策秘書・芳賀大輔の関与を示す証言、証拠が出れば別問題。芳賀も起訴され、鳩山の連座制が問われることもあるが、それが進退問題にまで発展するとは思えないし、特捜部もそれを想定した捜査はやっていない。
実は、特捜部が摘発に向けて執念を燃やしているのは、「鳩山」ではなく「小沢」。それを如実に感じているのは、西松建設事件に絡み、何度も特捜検事の呼び出しを受けているゼネコン関係者である。
「とにかくしつこい。『小沢事務所に裏ガネを持っていっただろう』と、あの手この手で責め立てる。いくら否認しても許してくれないし、終わったかと思うと、また呼び出される。正直、うんざりだ」(ゼネコン幹部)
無理もない。西松建設から受けた献金を政治資金報告書に虚偽の記載をしたという政治資金規正法違反容疑で第一秘書の大久保隆規を逮捕して以降、特捜部は、「小沢事務所で仕切った」といわれる胆沢ダムの受注業者を中心に、事情聴取を重ねてきた。
その捜査は徹底的で、単に「国策捜査」と反発を強める民主党対策というだけでなく、当時民主党代表だった小沢一郎そのものをターゲットにしているのではないかと思われた。それが事実であると判明するのは、3月25日に大久保被告を起訴、しばらくはおとなしくしていた特捜部が、6月に入って再始動、裏ガネの行方を追及し始めたからだ。
これは何を意味するのか。
「大久保事件は、表の政治資金に関するものでした。問われたのは西松建設のダミーの政治団体からの献金で、それが虚偽記載にあたるのは事実ですが、献金の事実は記載されているわけで、『民主党代表の秘書を逮捕するほどのことなのか』という批判の声があがるのも無理はなかった。しかし捜査の過程で特捜部は、工事発注の際の『天の声』の見返りに、小沢事務所が裏ガネを手にしている疑いを持った。そこで、その捜査を本格化させたのです」(全国紙検察担当記者)
検察にあるのは、小沢一郎という政治家が持つ政治手法と政治献金に関する考え方への本質的な違和感であり反発である。
周知のように小沢は、元首相・田中角栄の愛弟子であり元自民党副総裁・金丸信の秘蔵っ子である。そのため二人の「親父」を逮捕した検察に、暗い情念で反発しており、特に「角栄裁判」をすべて傍聴した結果、事件はつくるものだという検察捜査の歪みを体感したのだという。そんな検察への思いが、大久保逮捕の翌日の会見で「不公正な国家権力の行使」という怒りを滲ませた発言につながった。
だが、逆に検察は、西松事件に絡むゼネコン捜査で、小沢事務所と建設業界が、献金と仕事をバーターする昔ながらの発想で結ばれていることを承知していた。しかも西松献金に見られるように、「裏」を「表」にする努力はしているものの、それはダミーの介在で明らかなように形だけ。それだけでなく、「裏」を「裏」で集めているという確信を持つに至ったのだという。
検察関係者の証言――。
「小沢の政治団体の収入と支出の辻褄が合わないんです。支出が多くて収入が少ない。その支出先には小沢名義の不動産がある。そこで、その差額は裏ガネで賄ったのではないかという見立てのもとに、ゼネコンやサブコンから話を聞いていった」
伏線として、小沢の豊富な政治資金がある。小沢の政治団体の資産は、管理団体の陸山会だけで約11億円。それに誠山会など他の政治団体に、旧新生党の改革フォーラム21、旧自由党の改革国民会議など小沢が実質的に支配するものまで加えると、約31億円に達する。
その資産形成にあたって、改革フォーラム21と改革国民会議については、政党助成金の返還逃れを指摘する声が強いし、陸山会については豊富な資産を不動産取得に回し、政治団体では土地登記が出来ないとして個人名義で土地やマンションを取得している。
検察が嫌うのは、土地ころがしで資産を築いた田中角栄、金融債や金の延べ棒で蓄財していた金丸信に似た「政治をカネ」に換えて恥じない体質である。政治家としての活動に、10戸以上のマンションがなぜ必要なのか。批判されるのは当然。小沢は指摘した『週刊現代』を提訴したが、地裁も高裁も「マンションなどが陸山会のものとはいえない」として、小沢の主張を切り捨てた。
特捜部は、総選挙への影響を配慮して、8月中旬までで捜査はいったん打ち切ったものの、それまで小沢事務所への献金があると思われるゼネコン、サブコンの政界担当者への捜査は苛烈を極めた。なにしろ胆沢ダムの受注業者である水谷建設の元会長・水谷功は、当時の福島県知事・佐藤栄佐久の贈収賄事件に絡む脱税で服役しているが、特捜検事がその刑務所に十数回は訪問、献金の有無を問い質した。
水谷受刑者だけではない。目をつけられた政界担当者は何度も呼ばれ、否定しても許してもらえず、なかには耐えきれずに裏献金の一部を供述した業者もいたという。
(後略)