記事(一部抜粋):2009年11月掲載

経 済

財務省に牛耳じられた「日本郵政」

「官営化」で国債増発の受け皿に【金融ジャーナリスト匿名座談会】

(前略)
A しかし、政治は残酷だ。西川善文・日本郵政社長が辞任表明した翌日に、新社長人事を公表した。西川氏は1日でマスコミの世界から消えてしまった。西川氏には同情するよ。
B 西川氏の功労話をマスコミが流すのをシャットアウトしたかったんじゃないかな。民主党は、辞任せよと迫っていたが、冷静に考えると、西川氏にはほとんど落ち度がない。辞める理由はないわけだ。そういう報道がなされることを気にして、辞任発表の翌日に新人事をぶつけたとしか思えない。
C しかし、これで随分と見えてきた部分がある。何かと言えば、現政権の本質だ。民主党は官僚依存の打破などと言ってきたが、これは真っ赤なウソだ。少なくとも、財務省は別格ということだろう。財務省に日本郵政を献上したに等しい出来事なのだから。
A それにしても、10月21日の斎藤次郎氏の記者会見はひどかった。というか、同じ記者として恥ずかしかった。おべっかのような質問ばかりで、ちょっとでも日本郵政に関する質問があると、斎藤氏は「ノーコメント」を連発した。それを「おかしい」と詰め寄る記者もいない。中には「尊敬する人は誰ですか」とか、「郵便貯金は利用していますか」などと、笑うこともできない低レベルな質問をしていた記者もいた。
B 天下り問題を質問したのは雑誌記者だけだったようだね。
A そう。新聞、テレビ、通信社の記者は全滅だ(笑)。会見に出席していたのは、この先、郵政問題を担当する記者ばかりだから、嫌われて今後取材できなくなることを恐れたのだろう。取材できずに特オチでもしたら出世できない。残念ながら、我々は出世志向の強いサラリーマンだからね。
C だから、マスコミは弱体化しているといわれる。期待できるのは社会部だけだ。
A 話を戻すと、このトップ人事は実に象徴的だ。日本郵政の将来が透けて見えるようだ。民営化が完全に消えただけではすまない。
B そうだね。日本郵政公社時代(03年4月〜07年9月)どころか、それ以前の姿に戻るのがみえてきた。そのうち、トップを社長といわず、総裁というようになるんじゃないの。
C たしかに20日に閣議決定した「郵政改革の基本方針」の内容は日本郵政の王政復古宣言のようなものだ。株式会社形態を維持するとは書いてあるが、そんなことに何の意味もない。他の文面を見ると、完全に官製事業への逆戻りだ。
A しかも、この基本方針は新たに検討されたものではない。昨年末に民主党の内部で出来上がっていた報告書の簡易版にすぎない。一晩で官僚が書き換えたのだろう。
B 問題は、どこの官僚が書いたのかだ。
C 財務省に決まっている。それしかないだろう。
A とにかく、財務省は巧みだ。たとえば民主党政権が発足した際、「子ども手当て」などの財源がないという批判が起きたが、その際、財務省は民主党幹部に「財源は確保できる」とひそかに報告していた。民主党の有力議員がそう言っている。
B しかも当時、自民党に「財源の根拠なし」という批判を煽っていたのも財務省だよ(笑)。まさにマッチポンプ。
C その財務省の大物OBが日本郵政の社長になるというのは、たしかに脈略のあるストーリーだ。
A しかも、基本方針は官営に戻ることを示している。財務省が主導する官営事業の誕生だ。国債増発問題を抱える財務省は、国債を大量に購入する国債消化機関を自分たちの庭の中に確保したことになる。そして、政権には恩を売れる。ハッピーだろうね。
B 今回のシナリオも財務省が書いたのだろうね。
C そう言われている。勝栄二郎・主計局長がヘッドになってやっているとね。勝氏はやり手だ。いい悪いは別にして、スケールが大きい。
A そういえば、JAL問題を背後で動かしているのも勝氏だよね。
B そのとおり。数カ月前、金融危機のドサクサにまぎれて、日本政策投資銀行に追加融資させたのも勝氏の指示だ。政投銀の幹部が「勝さんの一言で決まってしまう」とボヤいていた。
C 今やっているJALの再建策もそうだ。政投銀も民間銀行も、追加融資に応じたばかりで、債権放棄というのは飲みにくい。特に民間銀行は株主から責任を追及されかねない。だから抜本的な再建計画はまとまらず、JALはゾンビのように生きる。さらに公的資金が3000億円入るとなれば、カネを出す政投銀の民営化はなくなり、政府系金融機関に戻るしかない。JALも財務省管轄の国有航空会社に戻る。実に巧みな戦略だね。
A それと同じタイミングで、日本郵政の逆戻りが始まった。しかも、大物OBの天下り付きで、民主党の天下り禁止方針を一瞬のうちに破壊してしまった。天下り禁止は、小物役人の世界だけになるだろう。
B ところで、これから日本郵政では何が起きるのかな。(後略)

 

※バックナンバーは1冊1,100円(税別)にてご注文承ります。 本サイトの他、オンライン書店Fujisan.co.jpからもご注文いただけます。
記事検索

【記事一覧へ】