記事(一部抜粋):2009年9月掲載

連 載

ETCに巣食う天下り団体を即刻排除せよ!

【霞が関コンフィデンシャル】

(前略)民主党は、政権を獲得した暁には高速道路を無料化すると公約している。同党のマニフェストには《ガソリン税、軽油取引税、自動車重量税、自動車取得税の暫定税率を廃止し、2.5兆円の減税を実施します。高速道路は段階的に無料化し、物流コスト・物価を引き下げ、地域と経済を活性化します》と書かれている。
 これに対抗する自民党と公明党の道路政策の目玉は、ETC搭載車限定で休日100円上限という「割引」だ。両党のマニフェストには書かれていないが、この制度はすでに実施されているので、読者の皆さんもご存じだろう。ただし、筆者のようなETC未搭載の者に、この恩恵はない。筆者がマイカーで高速道路を利用する場合には、従来通りの高い料金を支払わなければならない。
 一般の人にとってみれば、自民・公明の休日1000円より、民主の無料のほうがいいと思うだろう。しかし、「タダより高いものはない」という格言がある。経済学にも「ノー・フリーランチ(タダ飯はない)」という一般法則がある。見かけはタダにみえても、実際にはコストがかかっていて、結局トータルでは高くつく。高速道路の無料化はまさにその典型である。
 結論を先に言えば、民主党のタダ政策は最悪。自民・公明の「ETCで1000円」は、民主党よりはまともだが、やはりダメ。実はもっと真っ当な政策がある。
 それを説明する前に、まずは現在行われている「ETCで休日上限1000円」がどんな仕組みなのかをみておこう。
「休日1000円」は、未曾有の経済危機に対する対策として打ち出され、メディアでも連日のように取り上げられたので、多くの人が知っていると思う。ETCを搭載したクルマに限り、休日の高速道路が1000円で乗り放題というものだ。
 しかもETCの購入に5250円の助成金が出るというので、一時はETC車載器そのものが品切れになるなど一騒動になった。
 ちなみに、この助成金は総計で50億円ほどにのぼるが、これを仕切っているのは「高速道路交流推進財団」という国土交通省の天下り団体だ。ここで「天下り団体もたまには国民にとって良いことをするものだ」などと感心するのは早とちりだ。
 この団体は、かつて高速道路のサービスエリアやパーキングエリアの独占事業で莫大な収入をあげていたが、道路公団の民営化で解散することになり、資産を高速利用者に還元することになった。素直に解散して高速料金を下げていれば、看板に嘘偽りはなかったのだが、ETCの購入を助成すると言い始めたあたりからきな臭さが漂い始めた。
 というのも、ETC搭載車が増えるということは、国交省の別の天下り団体である「道路システム高度化推進機構(ORSE)」が潤うことに繋がるからだ。
 ORSEは、ETCのセットアップ事業を牛耳っている。ドライバーはディーラーやカー用品店でETC機器を購入してセットアップしてもらう。その際に3000円を支払うが、うち500円が自動的にORSEに入る。またディーラーやカー用品店はORSEからセットアップに必要な機材を借り受けているので、そのレンタル料もORSEに入る。
 さらにETCカード(専用のクレジットカード)が発行されるつど入るカード会社からの手数料、ETCレーンの設置費用など、ETCが普及すればするほどORSEは潤うのだ。
 ETC一式の費用は車載器、セットアップ、取付工賃などで1万5000円ほど。その一部が確実にORSEに徴収されているわけだ。
 実は海外にも、ETCと似たシステムは数多くある。
 米国のニューヨーク近郊をドライブしたことのある人なら「E-ZPass」を知っているだろう。日本のETC同様、レーンを通り抜けると通行料金がクレジット口座から自動的に引き落とされるシステムだ。ただし、ETCのような面倒くさい手続きは必要ない。インターネットで簡単に購入でき、ダッシュボードに張り付けるだけ。そのうえ、本体・諸費用はタダ(紛失した場合は20ドルが必要)。もちろん、E-ZPassがタダといっても、高速の利用料金はしっかり払うので、全部がタダというわけでない。JRのスイカにしても、カードの発行はタダだが運賃はきちんと払っている。それと同じだ。
 そもそもこうした「電子マネー」ビジネスでは、カードなど端末の価格は極めて安価、もしくはタダが常識だ。業者にしてみれば、利用さえしてもらえれば、料金を確実に徴収でき、顧客の確保にもつながるメリットがあるからだ。
 それにしても、同じような道路料金徴収システムでありながら、日本のETCはどうしてこんなに面倒くさいのか、まったく不可解だ。
 実は「高速1000円」の裏には天下り利権があって、この利権を握る連中にうまい汁を吸わせたくないと思う筆者のような者には、料金割引の恩典が行き渡らないようにするのが、今の自民・公明のやり方なのである。
 それでは民主党はどうか。同党が謳う高速道路の無料化は、筆者のようにETCを搭載していない者、そして運輸業界、観光業界など自動車を商売道具としているユーザーにとっては朗報だ。高速道路料金収入は毎年2兆円もあるが、その料金負担がなくなるのだから、これは大きい。
 しかし「タダより高いものはない」の格言を思いだそう。現状の1000円ポッキリ料金でもこれだけ高速道路が混雑するのだから、タダになったら全国各地で渋滞が続出するだろう。高速道路では、いったん渋滞に嵌まったらそこから抜け出す術はない。
 民主党の政策を実行すると、今は目に見えない問題も浮上してくる。小泉政権の下、日本道路公団への補助金2000億円を打ち切り、民営化した経緯があるのは、皆さんご存じだろう。民主党の政策が実行されると、民営化会社は実質的に国営となり、民営化会社の債務40兆円を国が引き取らなければならなくなるのだ。
 前号の本欄でも指摘したように、民間のエコノミストたちは「民主党が政権をとると大きな政府になり、財政赤字が拡大する」と予想している。民営高速道路会社が国営化されると、彼らエコノミストが想定するのとは違った形で、財政赤字拡大が現実のものになる。民主党がいくら「民営化会社の職員を公務員に戻さない」といっても、2兆円あった収入の大半が税金投入に振り替わるのだから、職員は実質的な公務員にならざるをえない。およそ1万人の国家公務員が増える計算で、まさに公務員天国だろう。
 しかし、それ以上に深刻なのは環境へ与える悪影響だ。(後略)

 

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