記事(一部抜粋):2009年9月掲載

社会・文化

封印された押尾事件の闇

酒井事件とは明らかに違う警察の対応

 押尾学事件に続いて酒井法子事件が発覚、テレビのワイドショーは、久々に高視聴率の取れるネタを見つけて活気づき、週刊誌や夕刊紙も負けじとスクープを競っている。
 押尾学が合成麻薬のMDMAを銀座ホステスとともに使い、ホステスが全裸で死亡、押尾が麻薬取締法違反容疑で逮捕されたのが8月3日の夜。同日、酒井の夫の高相祐一が渋谷の道玄坂で警察の職務質問を受けて逮捕され、のりピーは「動転して疾走した悲劇のヒロイン」のはずだったが、実は自身もクスリ漬けで、部屋から覚せい剤も見つかり、8月8日、警察に出頭して逮捕された。
 このタイムラグと、一〇代の頃からアイドルとして親しまれたのりピーの芸能人としての格は、女優・矢田亜希子との結婚が唯一の話題といっていい押尾をはるかにしのぎ、のりピー逮捕後の報道はそれ一色で、押尾事件はかき消された印象である。
「旬」を追うマスコミの習性を考えれば仕方のない側面があるものの、押尾事件では人がひとり死んでいる。しかも、死に直面した押尾は、救急車を呼ぶことなくマネージャーを呼んで処理を任せ、通報は4時間後というふだんの言動通りのチンピラぶりだった。
 こんな無責任男を放置してはなるまい。「保護責任者遺棄致死罪」という罪名はともかく、死因や「空白の4時間」の間にどんな隠蔽工作を押尾らが行ったかを調べ、「死んだ女性にクスリをもらった」という押尾の弁明を信じることなく、薬物ルートを解明するのが警察の仕事だろう。
 しかし警察は、まったく動かない。
 死んだホステスの関係者は、週刊誌などの取材に「事件の翌日、警察(事件を担当する麻布署)に駆けつけたところ、刑事に『事件性はありません』と断言された」と答えている。また、警視庁はマスコミの社会部記者にも同様の説明をし、事実、捜査は所轄の麻布署に任せ、殺人を扱う捜査一課が乗り出すこともなければ、薬物対策の組織犯罪対策五課が捜査することもなかった。
 こうした警察の対応は、酒井事件とは明らかに違う。酒井事件はマスコミ社会部の正規軍にワイドショーや雑誌の記者、そこにネットのブロガーも加わって、凄まじい情報が流されている。その真贋は警察の秘かなリークでつけられ、また捜査体制面でも組織犯罪対策五課が当初から乗り出して、酒井夫妻の薬物入手ルートを徹底的に洗い、事件を大きく展開させる構えを見せている。
 押尾事件は酒井事件によって封印された。そこには両者の「格」とは別の、「背後の力関係」が大きく左右している。
 芸能プロダクション社長が解説する。
「のりピーは、失踪後にテレビ出演、『法子、連絡して欲しい』と呼びかけて、人の良さを見せつけた相澤正久社長のサンミュージック所属。一方、押尾は各方面に力のあるエイベックス(グループ・ホールディングス)所属。それが明暗を分けた」
 もともと芸能界は、興行を通じて暴力団関係者とのつき合いを欠かせず、一方でタレントを「一日署長」などの名目で「タダ貸し」することから警察にもパイプがある。「表」と「裏」の2つの「力」にアクセスできるのが、芸能プロダクションの強みでもあり弱みでもある。
 そうした芸能プロのなかでもエイベックスは、浜崎あゆみ、幸田来未といった人気タレントを抱える音楽業界の一大勢力で、社長の松浦勝人は業界に幅広い人脈を持つ著名人。ただ、その人脈と実績がアダとなって、右翼などから攻撃されることも多い。
 4年前には九州の右翼団体から執拗な攻撃を受けたことがあった。この右翼が各方面に撒いた「質問書」には、エイベックスと暴力団との関係、所属タレントのクスリを始めとするスキャンダル、松浦自身の数々の疑惑が書き連ねてあった。
 そうした攻撃にさらされるのは、この時だけではない。つい最近も右翼系新聞社に連続して攻撃を受け、これはネットに掲載されているため、「エイベックス」や「松浦勝人」で検索すれば、いつでもヒットする。
 真実性は疑わしいが、ネット社会では情報が「さもありなん」という形で一人歩きする。エイベックスは、東証一部上場企業でもあるだけに、こうした情報の氾濫は、松浦ら経営陣を悩ませている。
 松浦は、小室哲哉を売り出してエイベックスを飛躍的に伸ばし、続いて恋人でもあった浜崎あゆみを歌謡界のスーパースターにした。その手腕は誰でも認めるところだが、一時は、音楽仲間やタレントとの交遊が、連日連夜に及び、ハイテンションのまま朝を迎えるのが常だった。
 そうした過去を、今、ほじくり返されている印象で、松浦としては「防御」せざるを得ない。その時に頼ったのが、「フィクサー」として知られる安藤英雄だった。(後略)

 

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