記事(一部抜粋):2009年8月掲載

社会・文化

100億円集めた「アルマ・高橋誠」ギブアップ

投資家から逃れても捜査当局の追及を逃れることは難しい

 政権交代を占う選挙といわれた東京都議選投票日(7月12日)、新宿区内の公営施設に集まった二百数十人の投資家は、わずかな希望も打ち砕かれて落胆するしかなかった。
 壇上にいるのは、投資集団のアルマグループ(アルマ)と東京フィナンシャルグループ(TFG)を率いる高橋誠氏――。
「おカネはもうありません。体の調子も悪い。株式の運用で利益を出し、お支払いしていくしかない」
 東京・赤坂の高級マンションに構えた立派なオフィスを閉じ、「拠点を東南アジアに移す」と、会員の投資家に通告、高橋氏が姿をくらませて1年半近い歳月が流れていた。
 高橋氏への連絡は、メールか電話応答サービスへの伝言だけ。「逃げるのか!」という批判に応じて、昨年6月29日、会員が株主でもあるというスタイルを取る「アルマ」の株主総会に合わせて、「説明会を開く」と宣言していたものの、直前になってキャンセルした。
 その時以来の高橋氏の「登場予言」だけに会場は満杯。怒りを胸に、全国から投資家が集まってきたのだが、「カネはない!」と、最初に高橋氏は開き直り、投資家にはあきらめムードが漂った。
 各種ファンドに1000万円を投じたという40代の女性投資家は、結局、ひとことも発することがなかった。
「返せるのか返せないのか、返せるならどうやって返すのか、期限はいつか、といったことを聞きたかったんですが、高橋さんは自分の投資の失敗を他人のせいにするなど言い訳ばかり。奥さんとは離婚、人工透析を受けていて、株の運用で返すにしても、その原資がないから貸して欲しいとまでいう。何を言っても無駄な気がしました」
 2002年から03年にかけて、高橋氏は飛ぶ鳥を落とす勢いのファンドマネージャーだった。といっても、単なる資産運用家ではない。積み上がる日本の国家財政の破綻を予言、「その前に資産を逃避させなさい」という終末思想の伝道師だった。
 当時、上梓したのが『日本国家破産時に財産を10倍にする人ゼロにする人』(日本文芸館)である。世界でもトップクラスの借金を抱えた日本はいずれ破産、その時、円は暴落するから海外に資産逃避、米ドルやユーロへの切り替えを説いた。
 その際、安定運用として資産の70%をスイスのプライベートバンクに預け、残りの30%を自分(高橋氏)のファンドに預けてアクティブ運用するよう勧めている。
 もともと「アルマ」は、ファックスサービスを柱にしたネットワーク組織だった。ファックス利用のマルチ商法で、当然のことながら、時間が経てば会員が集まらなくなって壊滅するのだが、高橋氏はその組織を継承、マルチ商法を止め、ファックス通信で金融サービスを提供する会社に切り替えた。
 それが功を奏した。アルマ会員は高橋氏の運営ファンドにカネを預けるようになり、その口コミで会員は広がり、やがて運用専門の「TFG」へとつながった。
 TFGはスイスのプライベートバンクの業務を代行、顧客の資産を高橋氏と親密な日本信託SA(本社スイス・ジュネーブ)を通じてスイスのプライベートバンク(最初はクレディ・スイスで次にジュリアス・ベア)に、米ドルやユーロで外貨預金した。
 終末思想を説く預言者として高橋氏の人気は高まり、ピーク時にスイスのプライベートバンクに約500億円が預け入れられ、高橋氏のファンドは約100億円を集めていた。
 その人気に乗って高橋氏は、週末には全国各地を講演行脚、どの会場も100名以上の資産家で埋まり、彼らは、場慣れした高橋氏の講演を熱心に聞き入り、後の懇親会では個別に話を聞きたがった。
 その頂点が上場企業の買収だろう。
 高橋氏のファンドは03年2月、大証2部に上場する「キーイングホーム」という注文住宅会社の発行する第三者割当増資や新株予約権付社債を引き受けて筆頭株主となり、高橋氏は社長に就任した。(後略)

 

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