手元に、あるメーカーの従業員の名前が書き込まれたリストがある。「必要人員」という欄には、従業員ごとに「必要」「余力」などと記載されている。
今年5月21日、日本共産党の仁比聡平・参院議員が、参議院予算委員会で、リストを示しながら、パナソニックのグループ企業が、あからさまに社員を選別し、執拗な「退職強要」を行っていることを明らかにした。リストは、パナソニックの100%出資子会社「パナソニックファクトリーソリューションズ」(大阪府門真市)が作成したものだった。
今年2月17日、同社は、開発拠点の一つだった鳥栖事業所(佐賀県)を突然、今年9月までに閉鎖し、甲府事業所(山梨県)に機能移転すると発表した。
その日の朝、社員への説明が、テレビ会議システムで結ばれた国内3事業所で一斉に行われた。鳥栖事業所の全社員900人に対し、800人を甲府事業所へ、100人を北門真事業所(大阪府)へ配置転換するという内容だった。
鳥栖事業所の全社員900人のうち、500人は九州出身者で、260人が佐賀県内に居住していた。社員の多くは、自宅のローンや子どもの学校教育、年老いた親の介護などの問題を抱えていた。
同社は、記者会見でも、自治体への説明でも、「移転先への異動を基本に従業員の雇用の確保を図ってまいります」と表向き説明しているが、現実には、遠隔地への容赦ない異動計画だった。
ある社員によると、会社側の担当者は最初から「鳥栖工場で500人のクビを切る」と社内で公言していたという。その動かし難い証拠が、前出の「首切りリスト」。社員一人ひとりについて、あからさまに「必要」「余力」と選別していたのだ。
「余力」とされた社員の備考欄を見てみると、会社側の判断基準として「移動困難?」「移動不可?」「単身赴任?」「家族有→単身不可?」「55歳以上」、「○付けで退職」などと記載されている。
さらに「構造改革」と書かれた欄では、○や△、×、■、◇などの記号が使われ、「余力」とされた社員には、ほとんど×、△、■の印が付けられていた。
(中略)
驚いたことに、パナソニックファクトリーソリューションズ鳥栖事業所の隣接地には、同じパナソニックグループの「パナソニックコミュニケーションズ」(福岡市博多区)の佐賀事業場があり、こちらでも宇都宮事業場(栃木県)を閉鎖し、同事業所の従業員600人を佐賀事業場に、新潟事業場(新潟県小千谷市)からも従業員250人を佐賀事業場に配転させようとしていた。
両社とも同じパナソニックグループなのだから、グループ同士で正社員が今、実際に住んでいるところから近い場所で働けるように調整すればベターだと思われるのだが、会社側は、わざわざ正社員に遠隔地への配置転換を要求し、それを受け入れられないなら退職だと迫るのだ。
パナソニックは、正社員の多くが遠隔地への配置転換に応じられないことを見越して、体のいい「解雇」を、グループ一丸となって急いで進めようとしているように見える。(後略)