衆院選の焦点は民主党が過半数の240議席以上をとれるかどうかだ。上回れば鳩山由起夫の政権が誕生する。下回れば、連立をめぐる駆け引きが行われる。都議選後の自民党内の麻生降ろしをめぐるゴタゴタは、民主党が過半数に達しないケースを睨んだものだ。
民主党の選挙戦を事実上仕切る代表代行の小沢一郎は、獲得議席を「小選挙区150、比例90、合計240前後」と予想している。都議選の圧勝で民主党が過半数をたやすく超えるとマスコミが垂れ流すムードで大方が思い込んでいるが、そう簡単ではない。たしかに民主党に強い追い風が吹いてはいるが、公明党・創価学会の集票が自民党候補を押し上げる分を加えると300の小選挙区の半分で勝てるかどうか、というのが玄人筋の見方だ。
麻生を選挙前にひきずり降ろそうと画策した中川秀直が、支持を広げようと周辺を説得したのは以下のような言い方だった。「民主党は過半数を取れなかった場合に分裂の可能性がある。そのとき自民党総裁が麻生ではダメ。私なら一方と手を組めるので政権与党になれる」。民主党内部は安全保障政策で反目があるうえ、小沢に強く反発するグループもありバラバラだ。中川は、新党含みで動く渡辺喜美や鳩山邦夫らと連絡をとっている。選挙後、そうした集団を糾合し、自民党の数を膨らませたうえで、民主党の分裂を誘う。組む相手は小沢でも反小沢でも、過半数になるならどちらでもいい。
しかし、自民党の多数は中川の言を信用せず、麻生降ろしは失敗した。そこで中川や武部勤らは小泉チルドレンを糾合し、「改革自民党」という旗を掲げて分裂選挙に臨む。選挙後いつでも自民党から脱出できるよう準備をしたということだ。民主党が過半数に達しなかった場合に連立を申し込む算段が込められている。中川の権力への執念は相当なものだ。
これに対し自民党の多数は「一時的な下野はやむなし」と思い定め始めている。民主党が単独で過半数をとれなくても、国民新党、社会党を足し、それでも足りなければ渡辺喜美のグループを加えて政権をつくると見る。ただし「一時的」というのがポイント。「鳩山政権は早期に倒れる」と信じている。理由は、例の偽装個人献金だ。
鳩山がなぜ「自分のおカネ」(鳩山自身の説明)を個人献金として届けたのか、真相は分からない。ただ、自民党幹部は言う。「あんなことをする理由は税金逃れ以外にない。誰の税金逃れかはいずれ明確になる。総理大臣がそれに関わっていれば辞任しかない」。自民党は証拠を握っているが、選挙前に出しても鳩山が岡田克也に代わるだけで選挙情勢は変わらない。だから鳩山政権ができるのを待っている、という説もある。「鳩山が辞任すれば、民主党は岡田を後継にしようとするだろうが、そのとき政局が大きく動き政界再編が起きるかもしれない」と同幹部は言う。(後略)