記事(一部抜粋):2009年7月掲載

社会・文化

総選挙後に本番「検察VS民主党」

民主党が抱える数々の「爆弾」が破裂する

 総選挙での民主党の勝利と自民党の敗北、そして鳩山由紀夫・民主党代表を首班とする政権が誕生するのが確実視されるなか、「検察VS民主党」の争いが激化している。
 その中身に踏む込む前に、「検察と政治」の関係を振り返ってみよう。
 政治権力の腐敗は許さないという観点から監視する検察と、国会の場で政権政党の予算案や政治のあり方を問う野党第一党は、手を結ぶことが多かった。これに「第四の権力」として政治権力をチェックするマスコミを加えたトライアングルは、戦後、日本の政治をリードしてきた自由民主党にとって、最も怖い相手だった。
 ロッキード、リクルート、金丸信脱税につながる東京佐川急便など、日本を揺さぶる過去の疑獄は、いずれも野党と検察とマスコミが、嵩にかかって攻めかかり、自民党政権の利権癒着を抉り出した。
 逆に、そうした批判にさらされても、自民党が政権を握り続けていたのは、野党の弱さの証明で、一時期、新生党を中心とする「野合政権」が出来あがったものの短命に終わり、「昔社会党、今民主党という野党第一党」は、政党としての役割をこれまで果たしていなかったことになる。
 だが、近年、自民党は評価を落とし続けた。
 二大政党制の定着、小泉純一郎人気に乗った新自由主義路線の失敗、衆院自民党、参院民主党という「ねじれ国会」が続いているための政治の停滞、未曾有の経済危機を乗り切る力のない麻生太郎政権の脆弱――。
「たなぼた」とは言わないまでも、政権奪取が間違いないという時に、なぜ民主党は「最強の捜査機関」を敵に回したのか。
 検察OB弁護士が解説する。
「検察庁は最高検検事総長のもとに、全国1400名の検事が公訴権という権力で、政治や行政や国民生活に睨みを効かせる独立した役所ですが、法務省という行政機関を持つお役所でもある。従って、法務・検察という名で呼ばれる霞が関の行政機関として、『議会制民主主義の定着』というスローガンのもとで行われる民主党の『霞が関解体』を認めるわけにはいかなかった」
 日本の戦後民主主義は、優秀な官僚に法案から予算案までを丸投げ、国会質疑も官僚に委ねるという官僚主導で行われてきた。だが、予算と経済が順調に伸びる成長期にはふさわしいこのシステムも、成熟期を過ぎて停滞期に入ると、国民の納めた税金や年金を、自分たちの雇用と天下り先を確保するために使うといった弊害が定着、中央政府の役割を縮小のうえで、「政治主導」に戻すことが求められるようになった。
 民主党案では、「霞が関」の局長クラス以上に、いったん辞表を提出させ、民間から登用する「政治任用」も含め、「政治主導」でまず人事を握ることになっている。
 この案に賛成する官僚はいない。事務次官を頂点にピラミッドを形成、年功序列と経歴に見合った天下り先が用意されている「霞が関の秩序」を手放したくはない。
 民主党は、我々の権益に手を突っ込むのか――。
 この「霞が関の総意」に乗って捜査したのが、西松建設事件小沢秘書ルートだった。
 ダミーの政治団体をつくって小沢氏に献金していた西松建設は明らかに脱法。だが、従来であれば「修正」で済ませられる範疇で、いきなり秘書を逮捕するのはやり過ぎだった。とはいえ、民主党がいうような「国策」ではない。あえていえば「官策」――小沢民主党の好きにさせたくないという「官の総意」に基づいて、検事総長以下の検察首脳は、現場から上ってきた「政治資金規正法違反による逮捕」に異議を挟まなかった。
 このキャリア人事問題以外にも、民主党が検察の神経を逆撫でしている例は、少なくない。例えば「可視化法案」だ。
 これは民主党が議員立法で提出しているもの。取り調べを録音録画、自白の強要、暴行を防ぎ、冤罪の防止に役立たせようとしている。だが、警察も含めて、容疑者や被告を密室で脅し、保釈や執行猶予をチラつかせながら落とすのが彼らの手法で、「録画録音による取り調べの透明性」は、捜査を知らない政治家の空論でしかない。もし、検事や捜査員の手足を縛るというのなら、「司法取引」など新たな道具を与えて欲しい、というのが彼らの本音である。
 こうした民主党への反発に加え、「小沢秘書逮捕」で見せた民主党の「国策捜査批判」は、検察の民主党嫌いを加速させた。鈴木宗男、村岡兼造、松岡利勝など過去に狙われた自民党政治家は必ず、「国策捜査」だと検察を批判する。検察と一体となって攻めるときは、その批判を無視し、自分たち民主党が狙われると、小沢代表(当時)から鳩山幹事長(同)までが「国策」と言い募る。その「ご都合主義」に呆れた検察幹部は少なくない。
 権力を握った政党は、権力ウォッチャーの地検特捜部にとって、堂々の捜査対象であり、何の遠慮もいらない。しかも総選挙を前に手控えているが、民主党には摘発寸前の案件が少なくない。
 まず、障害者団体向け郵便料金割引制度を悪用した事件の「厚労省ルート」の先にいる政治家である。(後略)

 

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