記事(一部抜粋):2009年7月掲載

経 済

「ウォール街=財務省複合体」の解体

「オバマ暗殺説」が現実味をもって語られ出した

(前略)
 ところで、いずれ破綻するのが分かっているのに、返済能力のない消費者にサブプライムローンを組ませ、それを証券化して転売、高格付けで投資家を欺くというモラルハザードに陥った理由の一つは、高額のボーナスを餌にした「成果主義」だった。財務長官からシティグループの会長に転じたルービンは、会社を破綻させながら10億ドルの年俸を受け取っていた。国民の反感を買って退任したが、ウォール街に対する怨嗟の声は今も強い。なにしろ一般社員でもボーナスだけで1000万ドルを超えるケースが珍しくなかったほどだ。
 オバマは2月、年俸の上限を50万ドルとする提案を行ったが、結局、ウォール街の反対で見送らざるを得なかった。そんな「小改革」さえ実現できないにもかかわらず、「大改革」など果たしてできるのかと、米国民のみならず、世界中が疑心を抱いていることだろう。
 しかし前出の元外資系証券アナリストはいう。
「ブッシュ時代のゲーツ国防長官をそのまま採用したり、大統領選を争ったヒラリー・クリントンを国務長官にしたりと、オバマの人事は奇抜そうに見えて手堅い。元ニューヨーク連銀総裁でキッシンジャーアソシエイツ出身のガイトナーと元財務長官のサマーズは、ルービンの仲間でウォール街の息がかかっていると見られている。その2人を要職につけたので、反ウォール街勢力から真意を疑われているが、もし、就任演説の主張が嘘でないなら、途方もないことをやるかもしれない。ウォール街の奥の院はそれを恐れている」
 ゴールドマン・サックスは、原油高をあおって儲けたり、サブプライム問題を利用して「売り」で儲けたりと、マッチポンプなど当たり前、海千山千のツワモノだ。疑い深いウォール街の住人たちは、オバマの行動を注意深く見守っている。
 ところで、金融規制改革案が発表されるのに合わせて、ヘッジファンド協会は6月16日から18日にかけて、モナコで年次総会を開催した。それには「ある意味」が込められていると見られている。
 ヘッジファンドは、株式や不動産市場の低迷、その後の原油や穀物相場の下落のために運用成績が悪化し、投資家の解約要求が殺到。1年間で約1500ものファンドが清算へと追い込まれた。そのうえ、さらなる規制をかけられたら、壊滅的な打撃を受ける。そのため水面下では、熾烈な戦いが演じられているのは間違いない。
 ヘッジファンドは、一般の人たちから資金を集める投資信託と違い、世界の富裕層や機関投資家など少数の資産家を対象にしている。そうした投資家を相手にするうえで最も重要なことは、情報の秘匿であり、非公開だ。ファンドは、株主となった企業には、さまざまな注文をつける「物言う株主」であり、情報の適時開示を要求するが、自分たちは、投資銀行と同様に一切の情報を非公開としている。
 ところが、今回の金融危機で、ファンドと投資銀行は世界中から非難を浴び、昨年11月と今年4月の金融サミットで、ファンドは登録制として監視されるとともに、タックスヘイブンの透明性の確保などが提案された。欧州連合では、登録制よりも踏み込んだ認可制にする方針で、欧州統一の金融機関の監督機関を創設する計画もある。
 登録制にされ、情報の開示を求められること自体、ファンドにとっては看過できないことなのだが、とりわけファンドの大半が拠点としているタックスヘイブンへの規制は死活問題になりかねない。
 なにしろタックスヘイブンを利用した個人資産だけでも11兆5000億ドルにのぼると見られている。その巨額な資産には、ほとんど税金がかからないのだ。
 しかし、それ以上に重要なのは、タックスヘイブンは情報公開の必要がなく、外国政府から情報開示の要請があっても拒否してくれることだ。スイスの「情報保護法」と同じである。だから、大富豪の秘密資金だけでなく、麻薬や武器売買の代金、政治家や政府高官の賄賂などの汚れた資金も大量に流れ込む。世界の大富豪であり、米国の金融界の裏の支配者とも言われているロスチャイルド家もスイスに口座を持っている、といわれている。(後略)

 

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