記事(一部抜粋):2009年7月掲載

政 治

政権が代わっても主人は常に霞が関

新たな埋蔵金も手中に【霞が関コンフィデンシャル】

(前略)
 民主党はいま、「官僚主導から政治主導へ」をアピールし、民主党政権が実現すれば、さも政治主導の政策が行われるかのように喧伝している。だが民主党は、公務員労組を支持母体としていることもあって、その政策は、実は役人にやさしい「大きな政府路線」であり、官僚にとってむしろ好都合なものである。
 民主党はそれを自覚しているから、あえて官僚を批判するわけだ。霞が関もそこは了解済みで、批判されてもあまり痛くないという「大人の関係」になっている。
 民主党代表の鳩山由起夫は、事務次官の首を一回切ると宣言し、それに対して、各省の事務次官が「そんなことは法的にできない」と反対したと伝えられる。また、閣議に先立ち行われ事実上閣議をコントロールしている事務次官会議を、民主党は廃止する方針で、霞が関はこれに対抗して、「裏事務次官会議」を準備しているとも言われている。
 ただし、どの省の誰某が反対したといった具体的な話はない。その点でこれらの情報は怪しいといわざるをえない。「霞が関の抵抗」は一種のアリバイ工作にすぎない。民主党の官僚つぶしに本気で反対するというポーズをとっているだけだ。
 安倍政権のときには、公務員制度改革に反対した官庁として、具体的に財務省、金融庁、経済産業省、警察庁などの名前があがったが、今回そうした具体的な名前が出てこないのは、霞が関が裏で民主党と手を握りあっていることの証左である。官僚というのは、そのくらいしたたかなのである。
 霞が関は、細川政権で非自民政権を経験しているため、政権交代についてはさほど心配していない。露骨に抵抗するのではなく、どのように取り込もうかと手ぐすねを引いているのだ。
 取り込み手段の基本はマンツーマン対応。たとえば、民主党の陰の実力者、代表代行の小沢一郎には、財務省主計局幹部の某氏が対応している。そもそも民主党の政策担当者は、若手で官僚出身者が多いから、霞が関はその気になったら誰とでも接触できる。
 昨年の公務員制度改革では、当時の行革担当大臣・渡辺喜美が涙を見せたほど、民主党は協力的であったと巷間いわれている。国民も、民主党は公務員制度改革に積極的だという認識を持っているようだ。しかし実際には、民主党は重大な骨抜きをしている。
 たとえば、政府案では公務員採用について、省庁別でなく一括採用となっていたのに、民主党は修正段階でその条文を削除した。民主党の担当は松本剛明と松井孝治だが、特に経産官僚出身の松井は「公務員改革の最終段階では官僚と完全に手を握っていた」(自民党関係者)といわれる。
 もしかすると、松井に頻繁に接触していた官僚がいたのかもしれない。民主党政治家との関係構築は、役所側も評価するので、役人としても安心して接触できる。霞が関に理解がある政治家としては財務大臣の与謝野馨が有名だが、与謝野の秘書官も経産省の役人である。同秘書官が松井と接触していたとしても、何ら不思議ではないのだ。
 公務員制度改革は、安倍・福田政権の下、渡辺喜美の孤軍奮闘で進められたが、麻生政権下では完全に元に戻った状態だ。元幹事長の中川秀直が議員立法によって逆行を戻そうとしているが、仮に民主党政権になった場合、この中川私案をどこまで民主党が取り入れるかが、民主党の公務員制度改革に対する本気度を占う試金石になる。もちろん、民主党が中川に積極的に協力するはずはないが、高級官僚の解任規定を取り入れるかどうかがポイントだ。
 民主党内で公務員制度改革に熱心な長妻昭は、テレビなどマスコミに頻繁に登場する。いわば民主党の広告塔だが、党内の主要なポストに就いているわけではない。これも民主党の公務員制度改革がある意味ポーズであることの証左だ。
 鳩山は「事務次官はクビ」とアピールしているようだが、仮に政権を取れたとしても、二省間で事務次官か幹部クラスをスワップする程度のことしかできないだろう。事務次官から辞表を出させるというパフォーマンスも考えられるが、政策面では実権を官僚に任せることに変わりはなく、霞が関にとってまったく問題はない。その程度まで、霞が関官僚は民主党に食い込んでいる。
 日本政策投資銀行の完全民営化ご破算の件もそうだ。
 郵政人事に隠れているが、政投銀も商工中金も、財務省、経産省の最重要天下りポストであり、最重要課題だ。財務出身の大野功統、柳澤伯夫らが議員立法で完全民営化先送りの法案を出したが、彼らが法案を書くはずはなく、実質的には財務官僚が書いている。ただ、自民党だけでは法案が通らないので、民主党にも手を回した。民主党にはこの類の法案を議論できる人間が少ない。それで大久保勉が実務を担当した。彼は東京銀行、モルガンスタンレー出身の民間金融マン。金融機関出身ゆえに財務省に近い。財務官僚もそのあたりを心得ているので、政投銀では民主の修正で大久保に華を持たせつつ、狙い通り、民営化を阻止することに成功している。(後略)

 

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