記事(一部抜粋):2009年6月掲載

社会・文化

追い詰められた「改革3人衆」

西川・宮内・木村――政府の思惑に支えられ首の皮一枚

 米国発金融恐慌は、自由な市場環境のなかで国と企業を成長に導くという新自由主義的な経済システムを打ち壊した。
 官僚が復活、国家が企業に資本を注入、資金繰りを見るという国家管理型の資本主義が定着、規制緩和と構造改革で日本経済を再生するという「小泉―竹中路線」は否定され、日本郵政社長の西川善文、オリックス会長の宮内義彦、日本振興銀行会長の木村剛の「改革トリオ」には、逆風が吹き荒れた。
 もともと「郵便局」に代表される日本的な慣行やシステムを無視したところから始まった改革だけに、「トリオ」への感情的な反発は大きく、西川は社長退任を迫られ、宮内は「規制緩和利権」を追及され、木村はSFCG倒産で足元が揺らいでいる。
 この振れ過ぎた振り子の反動は、3人を一気に葬り去る勢いだったが、とことん追い込む余裕のない経済状況のなかで、3人はとりあえず首の皮一枚でつながっている。その理由を探ってみよう。
 三井住友銀行での辣腕ぶりと、米国流金融の総本山であるゴールドマン・サックスとの親密さを評価――当時の首相・小泉純一郎は、郵政民営化の象徴として西川善文を社長に迎え入れた。
 その流れをつくったのは、当時の金融相・竹中平蔵である。金融不況からの脱却を図るために、竹中は「竹中プラン」と呼ばれる「金融再生プログラム」で、銀行に厳しい資産査定と引き当ての強化を求めた。
 竹中は「外資の手先」という批判を浴びたが、そうした荒療治によって不良債権問題が終息、再生へ向けて歩み出したのは事実である。そうした「米国流」を定着させる一環として、竹中は、02年12月、当時、ゴールドマンでCEOを務めていたヘンリー・ポールソン(後に米財務長官)と西川の会談をセッティングしている。その結果、三井住友はゴールドマンの資本を受け入れた。
「守旧派」の牙城である日本郵政に乗り込むにあたり、西川はプロパーの役員を排除、外部出身者を経営中枢に据えた。なかでも重用したのは、三井住友銀行から引っ張ってきて専務執行役に据えた横山邦男を中心とする民間出身の若手で、「チーム西川」と呼ばれている。
 その西川に噛みついたのが総務相の鳩山邦夫だった。首相の麻生太郎の名代として郵政民営化の見直しを図り、全国郵便局長会などの支援を取り付けて、総選挙を有利に戦いたいという思惑がのぞく。
「(かんぽの宿をオリックスグループに売却することを決めた入札は)不適切だし、安すぎる」
「伝統ある建物(東京中央郵便局)の破壊は許されない」
 間違いではないが、大衆人気を引き寄せようという狙いは明白で、06年1月、日本郵政の社長に就任、3年半にわたって民営化の舵取りを担ってきた西川としては、過去を否定され、「利権狙い」の汚名を着たまま退任するのはプライドが許さない。
 それだけではなく、野党3党の有志議員12名が、西川を特別背任未遂などの容疑で刑事告発、地位を失えば検察に「政治利用」される可能性もある。当時の民主党代表・小沢一郎の公設秘書を逮捕したことで政界に不信感を抱かれている検察が、「西川捜査」を失地回復の道具にしかねないのである。
 もっとも、現在の状況のなかで、西川に代わり、火中のクリを拾うような経済人はいない。日本郵政の社長は、社外取締役らで構成される指名委員会で内定する。西川の任期は今年六月末。西川に辞任の意思がなく、政府内で密かに進めている後任選びも難航、指名委員会は続投支持で固まった。
 その西川と、「かんぽの宿で組んだ」と批判されたのが宮内義彦である。規制緩和関連の政府審議会の委員を10年以上にわたって務め、「規制緩和」とともに、業績を伸ばしてきた。
 人材派遣、タクシーやトラック業者へのリース、医療施設経営、株式会社による農場経営、「10分1000円カット」で知られる理容業――。
 こうしたオリックスの新規事業への参入は、宮内氏が96年、規制緩和小委員会の座長就任と時を同じくしており、「政商」といわれる所以である。ただ、「政商批判」は今に始まったことではなく、宮内にとって厳しいのは、その世評に加えてノンバンクという本業に赤信号が点滅していることだろう。
 オリックスの有利子負債は5兆5333億円にも達する。これはトヨタ自動車や東京電力に次ぐ数字で、資金が潤沢に回っている時代ならともかく、昨年9月のリーマンショック以降、金融市場は完全に凍りつき、みずほコーポレート銀行、三井住友銀行などの取引銀行は、我が身を守るのに精一杯で、オリックスの資金需要に応える余裕がない。
 年末から年初にかけて、金融界ではオリックスの資金繰り倒産が、真剣に取り沙汰されていた。
 その状況を救ったのは、政府・日銀である。
 日銀は昨年末、民間企業が発行するCP(コマーシャル・ペーパー)の買い取りを決めた。中央銀行が民間銀行の資金繰りを見るのは前代未聞だが、それだけ日本経済が追い詰められている証明で、今年1月末に買い取りを実施した際、金融機関が最も多く吐き出したのはオリックスのCPだった。
 CPだけではなく、オリックスは日本政策投資銀行の危機対応融資も利用、既に数百億円の融資を受けているが、5月末までにさらに数百億円規模の申請に踏み切った。
 政府・日銀が、そうしたオリックスの要請を受け入れるということは、破綻処理は日本経済に与える影響が大きいとして、オリックスの全面支援を決めたということ。この方針を見極めて、オリックス株は急騰した。
 竹中の盟友として知られ、02年10月、金融庁顧問に就任、「金融再生プログラム」の作成作業に従事、金融機関から総スカンを食った木村剛も、設立した日本振興銀行の「ミドルリスク・ミドルリターン」というビジネスモデルの構築に失敗、苦しんでいる。(後略)

 

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