経 済
「新生=あおぞら」を踊らす金融庁
公的資金の注入を目論む【金融ジャーナリスト匿名座談会】
(前略)B そもそも、この統合問題は、新生側が金融庁に相談を持ち込んだことから始まった。昨年末の信用収縮局面で、新生、あおぞらの両行は資金調達が厳しくなった。信用力が低下して、金融債がまったく売れなくなったうえに、コール市場で実質的に資金を調達できなくなっていた。そこがすべての起点だ。
C 特に新生銀行の場合、コール市場に供給される日銀マネーを調達しようにも、日銀に担保として差し入れる国債すらなくなっていた。そこで、一部の地銀から高い手数料を払って国債を借り、それを日銀に担保として差し入れるという綱渡りをやっていた。
A その後、金融市場の信用収縮が改善したことで、あおぞら銀行の資金調達難は解消したが、新生のほうは、まだ問題を解消しきっていない。再び信用収縮が起きると、おそらく資金調達に窮するだろう。
C つまり、新生のほうが問題を抱えているわけだ。そこで金融庁に相談したんだろう。
B そして金融庁も乗り気になった。問題銀行が一つなくなるのはありがたい話だからね。
A そもそも、金融庁は新生銀行で苦い経験をしている。ポルテ前社長のときの金融検査だ。検査官が目黒のシスムセンターを検査しようとしたら、ポルテ氏が激しく抵抗した。それで金融庁はシステムセンターの検査を取りやめただけではない。検査結果の評点を最終的に引き上げた。恣意的というか、デタラメというか、ひどい話だ。
C 佐藤隆文長官などは、ポルテ氏が金融庁にやってくると、ニコニコ顔で、英語で話し合いをしていたらしい。これは金融庁の関係者が苦りきった表情で話してくれたことだ。ポルテ氏は、長らく日本にいたにもかかわらず、まったく日本語を話そうとしなかった。
B 彼は日本の銀行のトップを務めていた。その人間が監督官庁のトップと会うとき、なぜ英語なのか。通訳を連れていって、日本語で会話すべきだろう。少なくとも、佐藤氏はそうしないとおかしい。なのに喜んで英語で話していたというのだから、ポルテ氏が金融庁を軽んじたのも仕方がない。
A その金融庁が新生、あおぞらの統合に乗り気になったのは、問題銀行が一つ消えるから、という単純な理由だけではない。金融庁の人事が絡んでいるといわれている。7月には金融庁長官人事が行われるが、いまのところ、後任長官として最有力視されているのが監督局長の三國谷勝範氏だ。佐藤氏の覚えがいいのがその理由だが、残念ながら、手腕に対する周囲の評価が高いわけではない。実績も乏しい。そこで、一発、この経営統合をまとめて実績をつくろうということらしい。
B 金融庁は金融機能強化法を復活させたのはいいが、公的資金の受け入れを申請する銀行が少ない。そこで、みずほグループを厳しく検査して、みずほに公的資金を申請させようとした。ところが、みずほは強く抵抗して金融庁の目論見は失敗に終わった。しかし、どうしても大手銀行クラスに申請させて、地銀にも申請の動きを広げたい。要するに、公的資金注入の実績を上げたがっている。
C つまり、あおぞらとの経営統合という名目で、新生に公的資金を注入しようというわけか。
B その通り。新生銀行はすでに公的資金が注入されているだけではない。決算の収益が経営健全化計画の収益計画を大幅に下回ったことで、国が保有する優先株式は普通株式に転換されている。現在、国は全株式の22%を保有する大株主だ。にもかかわらず、再度、公的資金を注入するとなれば、世論の批判が集まるのはまちがいない。金融庁に対する批判も高まるだろう。そこで、「経営統合のためです」という新たな名目で公的資金を入れる。そうして批判をかわしつつ、公的資金注入の実績もつくる。
C まるで、金融庁による金融庁のための公的資金注入だな(笑)。
B 新生というか、筆頭株主の米系ファンド、JCフラワーズは、金融庁から経営統合を歓迎する感触を得て、一気に、あおぞらというか、やはり米系ファンドで、あおぞらの筆頭株主であるサーベラスとの話し合いを本格化させた。一方、金融庁は公的資金注入を是が非でも実現したいがために、新生に対して厳しい決算を求めた。金融庁の意向を知ってか知らずか、監査法人も厳しい監査を行った。そうして、赤字膨張の業績予想修正を行わざるを得なくなった。それも、自己資本比率が8%台まで引き下がるほどの赤字決算だ。
C 自己資本比率規制が求めている「必達水準」ギリギリまで下がったわけだ。これはなかなか絶妙だ。8%を割り込めば、一気に経営問題となる。空手でいう寸止めというやつだね(笑)。新生としては当然、自己資本比率引き上げのための増資が必要となる。だが、市場からの資本調達は容易じゃないだろう。
A そうであれば、あおぞらとの経営統合を早く決定して、公的資金を申請するしかない。
B ところが、あおぞらというか、サーベラスの態度が微妙に変わった。はじめはフラワーズ主導の経営統合でも構わないというムードだったが、途中から、サーベラス主導という姿勢に変わった。新生の情報を集めて分析した結果、あおぞらのほうが経営内容がはるかによいことが分かったからのようだ。(後略)