民主党代表に選出される4日前の5月12日夜、鳩山由紀夫は全国紙とNHK、通信社の政治記者OBの集まり「七社会」に招かれた。小沢一郎が代表を辞任したのがその前日の11日。もちろん、鳩山はまだ代表選への出馬表明もしていない。ところが、「まるで総理大臣になるのが決まったかのように浮かれていた」(出席者)という。会合を主導する読売会長の渡辺恒雄らマスコミ長老の誘いに乗り、「出馬を決めたわけではない」と建前を一応述べた後、「首相秘書官には朝日新聞の某」などと人事論議にまで応じた。
鳩山の政治センスのなさは周知の事実だが、それにしても軽すぎる。この段階でマスコミは、鳩山と岡田克也の一騎打ちで鳩山有利と予測していた。ただし、ほとんどの新聞、テレビは小沢路線を継承するのが鳩山、反小沢路線が岡田という図式を提示。世論の多数は岡田支持という調査結果を踏まえて、岡田が党内中堅・若手の支持を集めて逆転する可能性もある、という見方を伝えていた。
小沢は西松建設事件で世論の批判に押されて辞任した。そういう情勢なら、慎重に発言しなければ自ら不利を招きかねないと考えるのが普通の政治家だ。だが、鳩山の態度は違った。自信満々で、勝利を確信していた。何がそうさせたのか。それは小沢の党内政治力だ。驚くことに小沢の政治的毒は、選挙前から鳩山に勝ちを確信させるところまで民主党内を汚染し尽くしていた。「数は力」の論理と、利益で人を誘導する田中角栄、竹下登らが培った旧自民党的多数派工作。それこそが小沢とその側近の得意技なのだ。
鳩山のもとにはすでに、鳩山120票、岡田100票弱という4日後の結果見通しが報告されていた。それだけではない。「岡田は幹事長、小沢は選挙担当の代表代行」という執行部人事も決まっていた。反小沢の岡田が負けた場合、挙党一致を名目に幹事長就任を求められて受けるだろうかというのがマスコミの関心だった。だが、実際には選挙前から幹事長就任は決まっていたのだ。小沢側近がいう。
「根回しをしたのは、衆院事務局職員から参院議員になったことのある小沢の参謀。岡田も首相になるのはまだ早いと考えている」
岡田が考えているのは自分が首相になるプロセスで、反小沢路線による民主党の再建などではなかったというのだ。これが本当なら、岡田を応援して反小沢を叫んだ党内の中堅・若手はいい面の皮だ。
マスコミがふりまき国民が信じた岡田の反小沢は、そもそもが幻想だったと、岡田をよく知る政治関係者はこう指摘する。
「岡田は単なる出世主義者。政治的理念はほとんどなく、あるのはいかにして国民の人気を集めるかという政治感覚だけ。カネに潔癖なふりをするのも、汚れたイメージが怖いからにすぎない」
今回も小沢からの使者に、選挙で小沢を批判しない見返りに幹事長就任を求めたという情報がある。(後略)