記事(一部抜粋):2009年5月掲載

連 載

【狙われるシルバー世代】山岡俊介

介護報酬3%引き上げは焼け石に水

「平成の姥捨て山政策」に異義あり
 今年4月から介護報酬が3%引き上げられているのをご存じだろうか。
「介護」は重要な仕事でありながら、他の職種に比べると賃金が低い。厚生労働省の統計によれば、全産業の女性の平均月収は24万7000円。これに対し福祉施設介護職員は20万4400円と4万円以上も下回る。男性に至っては全産業37万2400円に対し、22万5900円と凄まじい格差がある(07年6月時点)。
 このため、勤続年数も男性の場合、全産業の平均が13.3年に対し、介護職員は4.9年(ホームヘルパーは3.5年)と大きな開きがある。このような低賃金では、男性の場合、経済的理由から結婚するのもままならず、介護業界で「寿退社」といえば男性の退職を指すほどだ。
 では、今回の介護報酬引き上げで、介護労働者の待遇は向上し、勤続年数も延びるのだろうか。結論を先にいえば、期待薄といわざるを得ない。
 舛添要一厚労相はテレビ番組で、今回の介護報酬引き上げにより、介護労働者の給料は「月額2万円上がる」と繰り返した。だが、現実にそんなケースはまずない。それどころか、逆に給料が下がるケースさえ少なくないという。
「2000年にスタートした介護保険制度は、3年に1度、見直され、介護報酬は03年に2.3%、06年にも2.4%減額されています。今回3%上がったといっても、スタート時に比べるとまだ1.7%のマイナス。しかも、介護事業はそもそもが儲からない仕組みになっているので、自転車操業の経営会社が多い。介護報酬の引き上げによる収入アップ分は、これまでの借金返済などに回され、職員にまではなかなか行き渡らないのが実情です」(介護事業会社社長)
 厚労省の「平成20年介護事業経営実態調査結果」は、在宅ヘルパー、ケアマネ、特養、老人保健施設の4事業者ごとの、利用者1人当たり(1日)の事業者側の平均収入とコストを弾いている。それによると、在宅とケアマネは年度によっては赤字になっている(例えば05年の在宅ヘルパーは収入3833円に対し、支出が3834円。ケアマネは08年度、収入1万2338円に対し、支出が1万4441円)。しかも、4事業者とも年々収入は減っている。
 舛添厚労相がいう「月額2万円アップ」は、介護報酬引き上げによる収入増を2300億円と推定、これを介護労働者約80万人(常勤換算)で割った金額(年約28万円)が根拠になっている。だが厚労省は、「収入増加分を職員の給与などに使うよう、事業者に理解を求めている」に過ぎない。もちろん、強制ではない。
「今回の介護報酬アップは、支払いを一律に引き上げたものでもない。国は『加算』方式を取っており、3年以上勤務する職員が3割以上いる、夜勤職員が国の基準より1名以上多いといった施設への報酬を重くするようにした。だから、やる気があっても設立間もない介護事業会社の中には、収入減になるところがあるのです」(同)
 だとすれば、舛添厚労相の発言は「虚言」といっていい。
「国は今回、悪名高い『定額給付金』に2兆円の血税を注ぎ込んだ。介護報酬の引き上げ分はその十分の一程度です。あんな無駄なバラ撒きするぐらいなら、こちらにそっくり回してもらいたかった。そうすれば、本当に生きたカネになったと思います」(介護施設理事長)
 介護事業の労働者、特に男性の著しい低賃金の改善は、「基本的人権」にかかわる最優先課題とさえ思える。ともかく「普通の生活が出来ない」収入なのである。
 しかも、介護が必要な人の数(認定者数)は、介護保険スタート時(00年)の約256万人から、06年度は約440万人と1.7倍に急増。団塊の世代が75歳以上になる25年にはさらに爆発的に増えると予想されている。
 これに対応するためには、250万人の介護職員が必要と国は見積もっているが、非常勤を入れても現状、介護職員の数はその半分にも満たない。それは待遇が余りに劣悪だからで、「蟹工船」状態といわれる派遣労働の現場から弾き出された人たちにさえ敬遠されている。いくら求人しても、人が集まらないのだ。
 かといって、低賃金の外国人労働者の受け入れにも反対の声が強いのは、本連載の47回(08年11月号)で紹介した通りだ。いずれにせよ、国は問題を放置しているといわざるを得ない。今のままでは介護業界の将来は絶望的だ。
 それに輪をかけるのが、今回の介護報酬アップと並行し、国が打ち出した改正(改悪?)介護保険法の内容だ。(後略)

 

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