社会・文化
虎の尾を踏んだ特捜検察
「政局」になるのを承知で「小沢捜査」に着手。なぜか――。
(前略)
そこで、各界に疑問が生じている。総選挙が期待され、小沢一郎代表の民主党が政権を取ることが確実視されている大事な時に、なぜ東京地検特捜部は「小沢捜査」に踏み切ったのか。
検察OBの弁護士がテレビに登場、等しく「証拠と証言が集まり、摘発要件が整ったから捜査着手したのであって、言われているような誰かの思惑に動かされているようなことはない」と、語っている。
半分事実で半分違う。
証拠と証言が集まったのは事実である。西松建設事件を捜査する特捜部の現場は、東京高検、最高検という上級官庁に「政治資金規正法違反で捜査着手したい」という決裁をあげた。
これまでとシナリオが違うのは、従来ならここで、「総選挙が近く時期が悪い」「今の経済危機を考えたら、政界捜査はすべきではない」とストップがかかるはずが、今回、法務・検察の上層部に「止め役」がいなかったことだ。
なぜか――。
「小沢民主党に政権を取らせたくないからです。まず、検察には小沢一郎という政治家に嫌悪感がある。田中角栄を師匠にし、金丸信に育てられた政治家です。利権癒着の体質は今も変わらない。さらに民主党の政治手法を認めたくない。犯人取り調べの際、録画録音を義務づける可視化法案を提出、しかも官僚人事を政治家が握ると宣言している。もっともイヤなところに手を突っ込んできています」(全国紙社会部記者)
特捜部が捜査着手するには、多くの検察首脳の決裁を仰がなければならない。検事総長、最高検次長、最高検刑事部長、最高検東京担当検事、東京高検検事長、東京高検次長、東京地検検事正、東京地検次席……。
その過程で、検察首脳から「異論」が出なかったところに法務・検察の思惑があった。そこには自民党の思惑も入るはずである。
検察OBが本音を明かす。
「戦後、政治サイドのパートナーは、ほとんど自民党だった。日歯連事件の時のような諍いはあっても、『あうんの呼吸』で組める政党だ。官邸と法務省とのホットラインもある。ターゲットが最初から政権与党だったら自民党が硬化、検察はやりにくかったはずだが、小沢から始まるということで、お互い了解に達しやすかった」
そういう意味では、民主党のいう「国策捜査」は正しい。ただ、特捜部が狙う政治資金規正法や贈収賄は、ある意味でどの政治家も違反や違法で摘発される危うさを抱えている。献金には口利きの期待が込められ、それを規制する法律があれば、すり抜けようとする。従って、検察捜査はどうしても一罰百戒的なものとなり、それは摘発された側からすれば、自分を狙った「国策捜査」なのである。
そして、検察にとって都合がいいのは、常にマスコミが「サポーター」となってくれること。「特捜案件」は、細大漏らさず書くという不文律が新聞・テレビにはあり、その情報合戦のなか、検察に批判的な記事など書けるものではない。
検察とマスコミが一体となって追い詰めるから、ターゲットになった政治家は、逮捕から起訴までの間にボロボロにされ、「極悪政治家」として国民の脳裏に刷り込まれる。
「小沢捜査」も同じ道を辿っている。
最初は、公設第一秘書の大久保隆規容疑者の政治資金規正法違反事件だった。西松建設から違法を知りつつ、政治献金を受け取っていたというもの。小沢代表は、逮捕を受けた記者会見で、「不正な国家権力の行使」と強く検察に反発した。そこには、逮捕容疑の政治資金規正法違反が形式に過ぎず、「修正で済むではないか」という怒りがあった。
しかし、検察はそんなに甘くはない。小沢事務所を「東北談合の仕切り役」だという認定のもとで、捜査を西松建設からゼネコン全体へと広げ、参考人として談合担当の業務屋を片っ端から呼んで取り調べるとともに、捜索を岩手県庁や秋田県庁にも延ばした。
狙いは明白である。(後略)