東北地方の公共工事をゼネコンが獲得するのに小沢一郎事務所の「許可」がいるのは、土木建築業界では常識だという。
「特にここ数年は、10億円以上の工事は第一秘書の大久保隆規に挨拶するのが慣例でした。もちろん手ぶらでは行けません」
ゼネコン大手の東北担当者がそう証言する。これは政界では誰もが知っている話だ。
にもかかわらず、大久保が東京地検特捜部に逮捕されると、民主党は党を挙げて小沢擁護に回った。「検事総長を国会に呼んで事情聴取せよ」という見当はずれの声まで出た。大久保の逮捕容疑は政治資金規正法違反。西松建設の企業献金をダミーの政治団体を通して受け取ったという形式違反程度に、ちょっと見には思える。だから小沢も、当初は世間をごまかせると踏んだのだろう。だが、事件の本質はそんな軽いものではない。
自民党が我が世の春を謳歌していた田中派―竹下派支配の時代、政治家が地元の公共事業に介入するのは当たり前のことだった。予算編成の時期になると、衆参両院議員の秘書は血眼になって地元への大型工事誘致に動いた。予算をつけるために働いた議員には介入の権利が与えられる。表と裏を合わせ、謝礼もしくはリベートとして受け取る金額は工事額の3%から5%といわれた。議員には「職務権限」がないとされたからやりたい放題。そのチャンピオンが田中角栄、金丸信、竹下登であり、カネを集める力がすなわち政治力と思われていた。
その後、政治改革が叫ばれる中で、権限を持つ役人への口利きを罪とした「斡旋利得罪」の創設や政治資金規正法の改正、1993年、94年の検察によるゼネコン汚職摘発などによって、政治家のそうした体質は改められていった。とどめは「自民党をぶっ壊す」と叫んで、派閥ぐるみの官僚支配や自民党的親分子分の風習を壊した小泉純一郎の改革。国民の多くも古い自民党的体質の改善を望んだ。
特捜が問題にしたのは、小沢に残っていたその旧自民党的なやり口だ。小沢の付録のように西松のダミー団体から少額の献金やパーティー券を購入してもらっていたと暴露された自民党議員の顔触れを見るといい。二階俊博、森喜朗、尾身幸次、藤井孝男。いずれも古い自民党の匂いがするベテラン政治家だ。
小沢擁護に回った民主党は、旧自民党的体質を守ろうとしたに等しい。もう一歩で政権という思いや、ポスト小沢の思惑から、鳩山由紀夫や菅直人はそう動いたのかもしれない。だが国民はいずれ、彼らのしたことの意味に気づく。(後略)