記事(一部抜粋):2009年3月掲載

社会・文化

国家管理型資本主義に突入する

後で効いてくる「官僚復権」の怖さ

 日本経済は「奈落の底」に一直線で落ち込んでいる。国民の不安は、日に日に高まっている。国内総生産(GDP)が年率で12.7%の減少は、第1次オイルショックに次ぐ戦後2番目の落ち幅――こんな報道に、連日のように接して気持ちが浮き立つはずがない。
 唯一、元気なのが官僚である。
 経済学的には、新自由主義からケインズ主義への回帰、ということになるのだろうが、民間に需要を創出する力がなければ、国が肩代わりするのはある意味で当然のこと。問題は、バブル崩壊以降20年近くも官僚バッシングにさらされ、「規制緩和」と「改革」の小泉純一郎政権によって、権益を奪われ無駄を省かれたはずの組織が、復活してしまうことである。
 役人が持つ生態を、国民は年金問題で怒りとともに理解した。厚生労働省・社会保険庁の官僚は、国民の年金を自分たちの天下り先確保と慰安のために使って恥じず、しかも「どうせ他人のカネなのだから」と、年金記録はまともに管理せず、迫る年金破綻の危険性については、「自分の任期中に表面化しなければいい」と、出生率などの数字をごまかして放置した。
 そんな省益と自己保身を第一義とする官僚が復権する怖さは後述するとして、現在、役人は何を始めているのか。
 勢いを取り戻している筆頭は、財務省である。対策が小出しなので、国民には見えづらいが、金融機関と一般企業を「なんでもあり」で支えている。その用意周到さと合わせ、財務省には「官僚のなかの官僚」といわれた頃の自負と能力の高さがうかがえる。
 日本銀行もまた、CP(コマーシャル・ペーパー)やABCP(資産担保コマーシャル・ペーパー)の直接買い取りを始め、積極的な金融政策に踏み切っているのだが、これは財務省に後押しされたのが発端。未曾有の危機に政府・日銀が共同歩調を取るのは当然だとはいえ、昨年11月の段階では「CPの買い取りなどとんでもない」というのが日銀の認識であり、財務省は一歩先んじていた。
 財務省が最初に危機対応策を打ち出したのは、昨年12月11日だった。この日、財務省は「国際的な金融秩序の混乱に関する事案を危機と認定しました」とする報道発表を行った。根拠法は日本政策金融公庫法の第22条第3項で、日本政策投資銀行などの指定金融機関を通じて「危機対応業務」を行うという。確保された資金は3兆円で、2兆円がCPの買い入れに使われ、1兆円が資金繰り支援だった。
 これだけでは、この危機対応策にどんなカラクリがあるのかわからない。財務省の中堅官僚が解説する。
「政府系金融機関を民営化する際、金融秩序の混乱や大規模災害時には財政投融資からの緊急支援が必要だろうということで、財投を扱う日本政策金融公庫にその役割を担わせ、日本政策投資銀行を窓口として資金供給するシステムを、法律のなかに埋め込んでいたんです。それが早速、役に立った」
 8つの政府系金融機関の統廃合は「小泉改革」の一環だった。それは「民業」の圧迫を排し、官僚機構の無駄を省く郵政民営化路線と合致するもので、日本政策投資銀行は08年10月に民営化、それがわずか3カ月で「官」としての役割を担うようになった。
 金融政策に強い民主党代議士は、「自分たちの権益を確保しながら国の役にも立とうとする財務官僚はやはり凄い」と、舌を巻く。(後略)

 

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