中川秀直が「政局音痴」なのは、清和会担当の政治記者なら誰もが知っている。勝負ができない。負けるのが明らかでも意地を張る。「大将の器ではない」(中堅議員)。
渡辺喜美の反麻生、離党に理解を示すなら、それを口にした段階で派閥を割るべきだった。だが度胸がない。清和会内のいわゆる小泉チルドレンの支持を当てにして、自分の地位が確保できると思ったのは浅はかだった。
2月5日の清和会総会で、町村信孝が会長に復帰。中川は代表世話人に留まったものの、派内での発言権を失った。安倍晋三とその後ろ盾である森喜朗が主導する麻生支持と、中川が掲げる反麻生の路線対決の結果なのだから当然だ。今年九月までには必ずある衆院選に向けて、清和会は麻生を担いで突っ走る体制となった。
中川は65歳。安倍は54歳。首相を1年で投げ出して評判の悪い安倍だが、視線は5、6年後を見ている。そのころ中川は総裁候補ではなく、盛りの過ぎた老政治家。自民党が政権を一度は失うかもしれない危機の中で、派内の中堅・若手がどちらに傾くかは、勝負するまでもなく明らかだ。加えて安倍には、路線とは無関係に森と小泉純一郎の過去の人間関係からのバックアップがある。それが自民党政治というものなのだ。
ただ、清和会内部の争いは大政局の第一章にすぎなかった。次の騒動の原因は首相・麻生太郎の中川に劣らぬ政局音痴。衆院予算委で郵政民営化に反対という本音を漏らして小泉の虎の尾を踏んだ。
小泉は麻生の唯一の看板政策である定額給付金にケチをつけた。小泉が反麻生の旗を振れば、麻生内閣は衆院再議決に必要な三分の二の議席を確保できず、即座に退陣となる。森や安倍が庇っても無駄だ。麻生がただ一人逆らってはいけない相手、それが小泉であり、麻生の「思い上がり」(清和会幹部)がそれを忘れさせた。
麻生は7月8日から3日間イタリアで開かれるG8サミットまで解散せずに首相を続けるハラだ。それは前外務次官の谷内正太郎をサミットの事前交渉をする政府代表に、国際金融危機を担当する内閣参与に元外務次官の野上義二と元大蔵省財務官の行天豊雄を登用したことで明らか。自民党敗北が濃厚な中、サミット前に解散すれば政権を失いサミットに出られなくなる。麻生は、前首相の福田康夫と同じように「一度はサミットで世界の首脳と肩を並べたい」と小さなことを考えている。(後略)