記事(一部抜粋):2009年2月掲載

社会・文化

政財界に「配慮」する特捜検察

西松建設事件とキヤノン疑惑

 捜査対象者は、「なぜ俺を狙うのか」と憤る。本人の意識では、「口利きの見返りとしての献金」や、「政治資金報告書への記載漏れ」などは、「多少の罪」であり誰でもやっていること。つまりスピード違反の感覚だ。
 しかし、都心に事務所(議員会館)と住居(議員宿舎)を与えられ、一流企業の役員並みの歳費を支給されたうえに、3人の秘書の面倒まで国民に見させる国会議員が、さらに不法な形で献金を受け取り、それを申告していないなど、とんでもない話である。
 特捜検察は,常にその「権力ある者」と「権力なき国民」とのギャップを狙う。全国に網を張り巡らすことはできないから、「永田町(政界)」と「霞が関(官界)」と「丸の内と兜町と最近は六本木ヒルズ(経済界)」に置いた「ネズミ捕り」に引っかかった連中を摘発する。
 ファッショといえばファッショであり、スピード違反といってもさしつかえない。狙われた政治家、官僚、経済人は確かに無念であろう。しかし、そこは「地位ある者」「権力を持つ者」として我慢するしかない。
 ファッショを容認するのはマスコミの司法記者である。裁判所に置かれた記者クラブで日々の経費を国に付け回している彼らは、特捜検察と一体となって権力者を追う。また、特捜案件は大きく扱うという黙契が、一罰百戒の効果を上げる。
 戦後、60年以上もこうしたチェックシステムが機能してきたのは、国民がマスコミを通じて紹介される特捜検事の役割を評価していたためだろう。国民は政治家や官僚の役得を、鋭い嗅覚で見抜き、ヒルズ族に胡散臭さを感じる。その不満を解消する検察を信頼しているから、多少の「ファッショ批判」には動じない。
 だが、システムはいつか歪み、権力は衰える。今の特捜検察がまさにそうだろう。
 東京地検特捜部は昨年来、準大手ゼネコンの西松建設に捜査着手した。まず、海外から裏ガネを持ち込んだ前海外事業部副事業部長の高原和彦容疑者を横領で逮捕、今年に入って「裏工作」の第一人者である前副社長の藤巻恵次容疑者らを外為法違反で逮捕、続いて前社長の国沢幹雄容疑者を同じく外為法違反で逮捕。さらに政治資金規正法違反での立件を視野に入れて追及する構えだ。
 事件化するきっかけは、横領を見破られた高原容疑者が社内での責任追及に反発、検察に駆け込んだことだった。
「司法取引」のつもりが逮捕されたのは高原容疑者の誤算だが、その後、外為法違反に罪を伸ばし、政治資金規正法違反のほかにタイにおける不正競争防止法違反、原発工事絡みの疑惑まで視野に入れ捜査を進めているのは、捜査権と公訴権を持ち、事件を大きく展開するいかにも地検特捜部らしい手法である。
 何度も繰り返されるゼネコンの裏ガネの摘発と、国内外での政官界工作、そして政治資金規正法違反――。有史以来、「権力者への袖の下」が世界各国で繰り返されていることを考えると、呆れはするが、驚くには値しない。
 ただ、この捜査の先に、国会議員の摘発をあまり考えていないと聞くと、何のための特捜検察かと思わざるを得ない。
(後略)

 

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