記事(一部抜粋):2009年1月掲載

社会・文化

「オバマ」誕生で勢いづく環境ビジネス

「緑のニューディール」と「排出権ビジネス」

(前略)
 強欲な金融資本主義の果てに沈没した米国経済の威信を、オバマ新大統領は「エネルギー・環境問題の再構築」で取り戻そうとしている。
 その骨子は以下の通り。
 ?今後10年間に1500億ドルをクリーン・エネルギー分野に投資
 ?環境に優しい仕事500万人分の創出
 ?中東とベネズエラからの石油消費を10年以内に削減
 ?2050年までに二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスを80%削減
 脱石油のエネルギー環境とそれに伴うビジネスの確立。例えば、「ビッグ・スリー」をやむなく救済するにしても、これまでのようなガソリンをガブ飲みする「アメ車」の生産は許さない。オバマ新大統領が期待するのは、家庭用電源から電力を供給できるハイブリッドカーであり、次世代バイオ燃料で走る車である。
 失われた米国の製造業を、BRICsに対抗するような形で復活させることはないし、現実的でもない。新たなビジネスの形を創出する。それがクルマなら「脱石油カー」であり、そこに米国製造業の活路を見いだし、そこには惜しむことなく予算をつける。
 環境にやさしい社会への「チェンジ」であり、そうしたビジネスに関わる雇用を促進する。産業資本主義の時代に工場労働者は「ブルーカラー」、事務職員は「ホワイトカラー」と呼ばれたが、環境の時代の雇用は「グリーンカラー」と呼ばれる。
 絵空事ではない。ベンチャーキャピタリストとして著名なジョン・ドーア氏は、グーグルやアマゾンを発掘した投資家だが、今や彼の関心は環境と新エネルギーだけに向けられているという。
 ドーア氏だけではなく、投資家の「夢」と「欲望」が集まるシリコンバレーで人気のベンチャー企業は、いずれも環境と新エネルギー関連で、07年に投じられた資金は40兆ドルを超え、投資環境悪化のなかでも08年はそれを上回るという。シリコンバレーはグリーンバレーと化した。
 70年代以降、成熟国家となった米国は、ポスト産業資本主義を金融に見いだし、世界の投資を米国に呼び込む金融システムを確立、ITや住宅のブームを巻き起こし、それを金融商品化して世界経済を牽引した。
 演出家が、「マエストロ(名指揮者)」と呼ばれたアラン・グリーンスパンFRB(連邦準備制度理事会)議長であったところに、バブル崩壊が先送りされ過ぎたという不幸を生んだが、過剰流動性をもとにした繁栄が、いつか壊れるのは宿命だった。
 世界の金融システムを崩壊させた米国が、再び金融マジックで甦ることはない。では、黒人大統領が国民に将来への期待を持たせ、世界を牽引できる分野は何か。
 そこから導きだされたのが環境と新エネルギーであり、そこへの投資にカネを惜しまないオバマ戦略は「緑のニューディール」と呼ばれている。
 風力・太陽光発電などは、公共投資としての効き目がすぐに表れる。だが、ハイブリッドカーなど環境ビジネスは、産業として確立し雇用を生み出すまでには長い時間がかかり、投資効率は低い。その間の米国の凋落を、食い止めるシステムとして期待されているのが排出権ビジネスである。
「伝道師」はアル・ゴア元副大統領。地球を温暖化させる温室効果ガスの怖さを「不都合な真実」として世界に伝え、ノーベル平和賞を受賞したゴア氏は、CO2を道具にした「共生システム」の確立で新興国の成長に歯止めをかけ、同時に排出権取引でデリバティブを復活、しおれた金融資本に活力を与えようとしている。
 オバマ新大統領は、ブッシュ政権が離脱した「京都議定書」に間違いなく復帰する。それによって各国の対応がバラバラで、温室効果ガスの削減が思うに任せなかった状況が、大きく変わる。(後略)

 

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