記事(一部抜粋):2009年1月掲載

経 済

「証券」消滅へカウントダウン

他人事ではない米国証券界の突然の消滅

(前略)
 2008年9月に起こった「リーマン・ショック」は米国のみならず世界中の株式市場を暴落させ、今日では実体経済にも深刻な悪影響を及ぼすに至った。各国の市場関係者にとってみれば忘れ去りたい悪夢とでもいえる出来事である。だが、日本の証券会社にとってみると、「リーマン・ショック」よりも、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーが銀行に業態変更し、最大手証券のメリルリンチがバンク・オブ・アメリカ(バンカメ)に吸収され、突然米国に大手証券がなくなってしまったことの方が衝撃が大きい。なかでもメリルが吸収されたことは、日本の証券関係者にある種の脱力感さえ引き起こしている。
 ある大手証券幹部は言う。「リーマンは名門ではあるが、日本風に言えば所詮『準大手』。しかも80年代にも一度、実質破綻してアメックスの傘下に入ったことがある。それに比べればメリルは最大手、われわれ日系証券の目標だっただけに、メリルが銀行の軍門に下ったことによる喪失感は比べようもない」。
 メリルは日本の証券会社のお手本であった。簡単に言ってしまえば、メリルのマネを野村証券が行い、野村のマネを他の大手証券(97年までは大和、日興、山一)が、大手のマネを準大手が、というのが日本の証券会社の実態であった。海の彼方の米国のものまねだけをして、なんとかやりくりしてきた日本の証券界にとって、米国証券界の突然の消滅は他人事ではない。
 実際、足元の収益状況は極めて厳しいものがある。証券会社の収益源は、株の委託手数料や投資信託の販売手数料、それに引受やM&Aといったホールセール(法人)向けの投資銀行業務からの手数料などであるが、どれも総じて低調。とりわけ投資銀行業務は、市場の低迷もあって証券市場を通じた資金調達などが激減、ほとんどが大赤字になっている。
 例えば大和証券グループ本社と三井住友フィナンシャルグループが合弁で設立した投資銀行の大和SMBCは、ここもと毎四半期ごとに100億円単位の赤字を計上している。07年4月に大和SMBCの社長に就任したばかりの吉留真氏には早くも今年3月末での引責辞任説が飛び交っている。前任の社長の病気に伴い急きょ社長に抜擢されたため準備不足という面はあるが、赤字を垂れ流すだけで何ら手を打たないリーダーシップの欠如に社内外から批判が集中している。
 これまで大和SMBCの社長は大和サイドから出してきたが、次回は三井住友からとの説が有力。それどころかいつまでたっても投下資本を回収できないことに業を煮やした三井住友が、大和に対し提携解消を脅しに完全傘下入りを強要するとの物騒な噂も乱れ飛んでいる。
 それでもまだ最終的な落ち着き先が三井住友と決まっている大和はましな方である。よりしんどいのは日興、野村である。
 06年12月に不正会計問題で時の会長、社長らが引責辞任した日興コーディアルグループは、その後、身売りの噂が絶えず、「漂流する日興」と揶揄され、一時はみずほグループ入りが確定との報道さえ流れた。結局、それまで主として法人向けビジネスの分野で提携していた米国シティグループが日興グループの全てを傘下に収めることとなり、08年1月に三角合併を利用して完全子会社化が完了、ようやく落ち着いたかにみえた。
 ところが時を同じくして米国でサブプライム問題が爆発。親会社となったシティグループ自身が経営危機に陥ってしまい、日興グループを売却するのは必至の情勢となってしまった。実際、08年12月、シティは日興シティ信託銀行を売却するための入札を行ったが、次は日興コーディアル証券などを売却するとの見方が市場のコンセンサスとなった。慌ててシティは、証券などの中核事業を売却することはないとの声明を発表したが、額面通りに受け取るものはいない。第一、シティ自身が身売りの危機に瀕しているのだから、そんな口約束を真に受けられるわけがない。
 それ以前に、日興グループに勤めている社員のほうがここが潮時とばかり一斉に離脱を始めている。08年暮れに実施した希望退職には社員の約15%にあたる1000人超が応募する事態になっている。こうした動きは、優秀な社員が辞めて企業価値が下落する前に会社を丸ごと売ってしまおうという動きを誘発するから、せかされるように売却に追い込まれることになろう。そうなれば、みずほグループあたりが買収するというのが落としどころとなるだろう。
 野村ホールディングスも末期的である。(後略)

 

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