記事(一部抜粋):2008年12月掲載

社会・文化

「日韓海底トンネル」に潜む魑魅魍魎

北朝鮮に経済協力する「麻生」の親密会社

(前略)
今年10月10日、ソウルに韓国の全国経済人連合会会長の趙錫来ら韓国経済人15人、日本からは日本経団連会長の御手洗冨士夫、トヨタ自動車会長の張富士夫ら12人が集まり「日韓ビジネスサミット」が開催された。その席で「錦湖アシアナグループ」会長の朴三求は、日本側に海底トンネルの必要性を強く訴えた。
「韓日海底トンネルが韓中海底トンネルと繋がれば、東北アジア全体はもちろん、今後、欧州とも連結され、ユーラシア大陸を横断する大動脈が完成する」(『朝鮮日報』10月11日付)
 日韓海底トンネルは、単に日韓のアクセスがよくなるだけでなく、韓国と中国の間にも同様の構想があり、それと繋がることでユーラシア大陸を横断する大動脈が完成するというのだ。そうなれば、確かに日本側の懸念のひとつは解消される。
 日本側はこれまで、「北朝鮮が改革開放路線に転換し、韓国と北朝鮮の鉄道が連結されれば、シベリア鉄道を通じて欧州とつながる。日韓トンネルが完成すれば、日本から欧州まで陸路で連結する」と期待してきた。だが北朝鮮の改革が進む気配は一向になく、構想は幻想でしかなかった。
 しかし北朝鮮を迂回するルートがあれば話は変わる。そのためでもあるのか、10月20日、福岡市に同市と釜山市の両市長や経済人が集まり、「超広域経済圏」形成のための「経済協力協議会」を設立している。その会の参加者からも「日韓海底トンネル」の必要性が叫ばれ、韓国の国会でもハンナラ党議員から、検討の必要性が訴えられた。これに対し、大統領府の秘書室長が前向きな答弁をしている(『朝鮮日報』11月3日付)。
 一気に沸騰してきた感のある日韓海底トンネルだが、顔をしかめる向きもある。元首相の安倍晋三から「百害あって利権あり」と罵られた「日朝国交正常化推進議員連盟」(会長・山崎拓)だけではない。「新潟は面白くないでしょう」と事情に詳しい関係者はいう。
 今年9月、日韓中露の4カ国は、新潟港とロシア・ウラジオストク近郊のザルビノ港、韓国・束草港などの間に新航路を開設することに同意した。10月中に試験航海を終え、09年から本格稼動する。新潟港―ザルビノ港の新ルートは、中国とシベリア鉄道を通じて欧州へのルートにもなるため、「新潟港は活性化するし、新潟の建設会社にとっても港湾整備やインフラ整備の仕事が舞い込む」(同)と期待されている。
 新航路は別名「黄金のルート」と呼ばれているが、日韓海底トンネルが完成すれば、貨物の量は減少し、その価値は、黄金から銀、もしくは銅になりかねない。
 民主党代表の小沢一郎の夫人は、新潟の建設会社、福田組の令嬢で、現在でも福田組の大株主。そのため、「小沢代表は日韓トンネル構想を苦々しく思っているだろう」と囁かれている。
 今年3月、九州出身の議員を中心に「日韓海底トンネル推進議員連盟」(代表・衛藤征四郎)が結成された。九州出身の議員がこのプロジェクトに熱心なのは、もちろん地元経済の活性化のためだ。
 福岡が地盤の首相・麻生太郎もそれは同様。麻生は政界に転身するまで麻生セメントの社長を務めていたが、トンネル工事に伴うセメント需要の急増は、今は弟の泰が社長を務める家業の助けにもなる。
 麻生にすれば、地元の活性化、セメントの利益、政敵である小沢への牽制と一石三丁の妙手であるばかりか、もしかすると、巨額の受注にあずかるゼネコンから「感謝のお印」が舞い込むかもしれない。
 麻生セメントは2004年、社名を「麻生ラファージャセメント」に変更した。世界最大のセメント会社、仏ラファージャ社が資本参加したためで、出資比率は麻生側が約6割、ラファージャ社が約4割。実はこのラファージャ社の資本参加をめぐって、これは後述するが、麻生はセメント業界から「首相は二枚舌の男」と陰口を叩かれている。(後略)

 

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