記事(一部抜粋):2008年11月掲載

経 済

恐慌モードに入った日本経済

内需もダメ輸出もダメの八方塞がり【金融ジャーナリスト匿名座談会】

(前略)
B 1990年代の金融危機は、内需関連が崩壊寸前になったものの、輸出企業は隆々としていた。そのためギリギリのところで国内景気は底抜けせずに済んだ。その点、今回の景気悪化のほうがシリアスだ。やはり恐慌モードに入ったということだろう。
C すでに内需関連企業の倒産が続出している。アーバンコーポレイションなど新興デベロッパーが次々に破綻したが、それで幕引となる気配はまったくない。
A 最近は森ビルをめぐって不穏な情報が流れている。なんでも工事代金をゼネコンに支払えなくなっているという話だ。溜池のアークヒルズや六本木ヒルズでは空室が増えているというし、先行きが危ぶまれるね。
B 上海に建設した高層ビルも中国バブル崩壊の影響もあって尋常でない空きが出ているそうだ。
C 森ビルに限らないが、不動産業でゼネコンに工事代金を支払えないケースは珍しくない。その未払い代金はゼネコンの決算書の中の未収収益に計上されるが、これが急速に拡大している。いずれは手に入るだろうと利益計上しているわけだが、問題はそれが実現収益になるかどうか。実現収益にならなければ、危機は不動産からゼネコンへと連鎖する。その可能性が日に日に高まっているというのが実感だ。
A 長谷工やダイア建設といった90年代に経営危機に陥った企業の名前が頻繁に飛び交っている。根も葉もない噂といえないところが怖い。
B 輸出型産業もどうなることやら。日本一のエクセレント・カンパニーであるトヨタ自動車ですら、業績が悪化している。中小、中堅クラスで輸出主体の経営をしている企業などは推して知るべしだろう。
C ホテル業、中でも近年次々に日本に進出した外資系高級ホテルも厳しい。1泊10万円もするような高級ホテルは、外資系投資銀行などとの年間宿泊契約で一定の稼働率を維持できるビジネスとされてきた。ところが頼みの外資系投資銀行は御存知のような状況だから、高級ホテルの宿泊費などは真っ先にコスト削減の対象になる。高級ホテル大好きのバブル紳士たちも、資金繰りが厳しくなったり会社が倒産したりで、とても高級ホテルになど泊まれない。
A 日本に進出した高級ホテルは完全に目算が外れたね。これに激しい円高が加われば、日本への旅行者が激減し、宿泊客はますます減るだろう。
B 地方では、建設、土建業の多くが危機ラインにある。この手の企業は銀行借入が多い。地域によっては、県内大手クラスの地方ゼネコンの倒産がすでに発生しているが、正念場はこれからだろう。地銀の経営に直結する難問だ。
(中略)
C 消費マインドもすっかり冷え込んでしまった。過去最大級の冷え込みといっていいだろう。外食産業、流通小売業はその影響をもろに受ける。
A 中でもイオンを不安視する向きが多いね。いまだに巨大なショッピングモールをオープンしたりしているが、モノが売れない局面で、なんともチグハグな動きだ。
B 借金も多い企業だし、これから悪い噂が飛び交うだろう。すでにその兆候が出ている。
C そういえば「膨張主義がかつてのダイエーに似てきた」と、知り合いの流通小売業担当のアナリストが言っていたなあ。
A イオンはテナントを募って、その家賃収入で稼いでいる。新たにショッピングモールをつくると、テナントから保証料をもらえる。その金額がバカにならない。だから次々と巨大ショッピングモールを建てているという面がある。その点はデベロッパーや不動産業者の自転車操業と似ている。
(中略)
A 最後に銀行だ。銀行には、これまであげた各業界のダメージが必ず及ぶ。これは避けられない。だからどこまで持ちこたえられるのかという不安がある。
C 地銀がデベロッパーに融資する場合は、大手銀行がアレンジャーとなったシンジケートローンに参加するケースが多かった。地元に貸出先が少ないので、デベロッパーへの融資話に喜んで飛びついたわけだが、ここにきてそれがアキレス腱になっている。
A そうだね。地銀は「シンジケートローン債権は売却できるから安全」などと高をくくっていたが、地銀がローン債権を売りたくなる局面では、買い手もいなくなっている。だから売るに売れないのが現実だ。認識が甘かったといわざるを得ない。貸倒引当金の大幅な積み増しで収益が圧迫されるのは避けられない。
B 地銀は貸出難、運用難のなかで、不動産投資信託(リート)などに積極的に投資してきた。そのリートも倒産する時代だからね。
C もっと心配なのは、運用商品の中にデリバティブが埋め込まれているケースだ。オプションが設定されて、ある水準まで平均株価が暴落したり、円相場が上昇したりすると、投資元本がすべて失われるという商品も少なくない。実際、外資系投資銀行が売りまくっていた。ノックアウトオプションというもので、文字通り買い手をノックアウトする恐い商品だ。残念ながら、これに投資している地銀が少なくない。(後略)

 

※バックナンバーは1冊1,100円(税別)にてご注文承ります。 本サイトの他、オンライン書店Fujisan.co.jpからもご注文いただけます。
記事検索

【記事一覧へ】