記事(一部抜粋):2008年10月掲載

社会・文化

不動産「追い込み倒産」の理不尽

金融庁・メガバンク・老舗不動産に潰された新興不動産会社

(前略)
 これだと金融庁が、「融資しろ!」「融資するな!」と、直接、指導している印象だが、現実にそんな言質を残すわけではない。金融庁は金融検査の厳格化を通じて引き締めの意向を伝え、それに金融機関が応える。この「阿吽の呼吸」は、旧大蔵省がすべてを縛った「護送船団方式」の頃と変わるところがない。
 レイコフ、スルガ、ゼファー、三平建設、アーバン、創建ホームズ――倒産した不動産関連企業は、どこも融資を急激に引き絞るメインバンクの豹変に驚嘆した。当然、怒る。それを担当にぶつけると、次のような言い訳が返ってきた。
「金融庁が融資を認めないんですよ」
 前述のように、「融資ストップ」の指示を金融庁が、直接、出しているわけではない。ただ、検査を通じて、例えばスルガやアーバンの査定は業界にも伝わるわけで、横並びの貸し剥がしが始まった。そうなると金融機関は「スルガやアーバンの物件を購入しようとする企業にも貸せない」と過剰反応、狙われた新興不動産は売却による資金繰りさえつけずに、追い詰められていった。
 また、金融庁のそうした厳しい姿勢は、不動産融資を絞りたいと思い始めていた金融機関にも好都合だった。
 新興不動産は不動産流動化を軸にしているため、土地担保主義で過剰の負債を抱えたバブル期の不動産会社とは違う、と説明されていた。ところが収益還元法が徹底していたとしても、借り入れが過剰ならバブル期と変わるところはなく、メガバンク以下の金融機関は、右肩上がりを信じて借りまくり地価を高騰させた新興不動産に過去の幻影を見たのだった。
 だから、羹に懲りて膾を吹いた。加えて、自己資本比率が強化された「バーゼル2」によって、リスクの大きい不動産会社には貸せなくなった。貸倒引当金を積み増さなければならないためだ。その融資引き揚げの口実に使われたのが、「金融庁の指導」であり、「反社会的勢力」という烙印だった。
「反社会的勢力」とは、暴力団に関与するような企業や人物のことだが、本誌が前号《「スルガ」「アーバン」倒産の裏事情》で記したように、金融機関はその烙印を押すことで、融資引き揚げを正当化している。
 政府は昨年6月、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を閣議決定した。「暴力団関連の排除」に異議を唱える人などいないが、現実に難しい「反社」の認定は、それぞれの金融機関に任せられており、金融庁や警察庁はなにかあった時の後押しをするだけである。
 かくして、土地関連融資を引き絞りたい金融庁とメガバンクを代表とする金融機関の思惑が合致、さまざまな言い訳が繰り返されて「黒字倒産」が相次いだ。
 その両者の思惑に相乗りしているのが三井、住友、三菱など旧財閥の名が冠せられた老舗不動産などである。旧財閥系というより、みずほフィナンシャルグループをバックにした東京建物など、金融機関の資金力をあてにできる不動産会社と言った方がいいだろう。「黒字倒産」したような新興不動産、あるいは資金繰りが苦しくなった不動産ファンドの優良物件を、虎視眈々と狙っているのは彼らである。
 追い詰められた新興不動産の代表が、こんな感想を漏らす。
「新興不動産の社長といえば、スルガの岩田(一雄元社長)さんやアーバンの房園(博行社長)さんのように、カンと度胸に営業力で成り上がってきた人ばかりです。それに対して、金融庁やメガバンク、三井、三菱、住友といった不動産にいるのは、一流大学を出た仲間。彼らがみんなで、素性の良くない不動産屋を追い出そうとしたんです」
(後略)

 

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