経 済
恐慌の瀬戸際に立つ世界経済
日本は完全に危機の土俵に上がった【金融ジャーナリスト匿名座談会】
(前略)
B 過去の金融危機は、銀行という間接金融の金融会社を中核にして起きた。しかし今回は直接金融だ。融資が焦げついて不良債権化し、それで自己資本が食われましたというだけでなく、社債市場や証券化市場で資金調達ができなくなるという問題がメーンとなっている。そして、その市場が麻痺することで危機が伝播するというシステミックリスクが起きている。これは過去に例のない事態だ。世界経済は未体験の危険ゾーンに突入したと言っていい。
C しかも、信用創造というか、不良化した金融資産の規模が天文学的だ。例えばファニーメイ、フレディマックという2つの住宅関連企業が買い取った住宅ローンを元に発行した社債や証券化資産の規模は500兆円もある。その資産が劣化してしまった。つまり日本のGDPとほぼ同額が不良債権になりかねないということだ。
A ファニーメイなどについては、米国政府が公的管理下に置くことを明らかにしたが、具体的にどうするのかはよく分からない。公的管理下に置くということを、日本が過去の金融危機の際にやったことと同じ意味だととらえると、公的資金をぶち込むという話になる。その場合、保有する資産にどの程度ロスが発生しているのかにもよるが、公的資金をいったいどれだけ注入するのか。米国の財政赤字は膨張している。「公的資金を出します」と言っても手元の財政資金に余裕はない。資本市場から国債発行などで資金を調達するしかないだろう。
C しかし、そんな国債を誰が引き受けるのか。巨額の国債発行となれば、米国の長期金利は跳ね上がり、一方でドルの信用力が低下してドルが大暴落しかねない。言うは易し、行うは難しだ。
B ファニーメイなどの証券化資産は、中国や日本が外貨準備で大量に保有している。米国のポールソン財務長官は、五輪開催中に中国を訪れたが、その理由は明らかにされなかった。少なくとも五輪観戦が目的ではなかったはずで、おそらく、ファニーメイなどの証券化資産を売却せずに、今後も買い続けてほしいと中国政府に要請したのだろう。そうだとすれば、中国に損を出させないよう、米国政府は公的資金、つまり税金を投入せざるを得ない。
A しかしそれには米国民が黙っていないだろう。少なくとも政治責任が問われる。
C だからこそ、ファニーメイなどを公的管理下に置くことを明らかにしても、具体的な動きが出てこないのだろう。早く責任を明確にしないと、この先一歩も進めない状況になっている。
B まあ、世界規模の話はこの程度にして、日本国内に及ぼす影響について話を移そう。リーマンが破綻してすぐ、邦銀がリーマン向け無担保債権をどの程度保有しているかが明らかになった。あおぞら銀行は1ドル100円換算で460億円余り。みずほは289億円、新生銀行は231億円だ。無担保融資を実行したり無担保社債を引き受けたりした結果だろうが、そのまま保有しているとすれば相当な損失になっているはずだ。
A 破綻が発表されてまだ間もない段階で、リーマン向け債権の回収についてはロス率が60%から70%になっているという話を聞いた。しかし日が経つに連れ、ロス率は高くなるだろう。莫大な損失の発生を覚悟する必要がある。
C 地方銀行なども社債や融資の債権を数十億円単位で保有しているところが少なくない。回収が滞れば、貸倒引当金を積むしかない。かなりの引当規模になるだろう。すでに赤字決算を計上する地銀、第二地銀が現れているが、9月中の引当処理によって、さらに赤字が拡大する可能性が高い。システミックリスクの波が押し寄せているわけだ。
A リーマンと同様の外資系投資銀行の社債を保有していたり、あるいは融資していたりすると、信用リスクの観点から、リーマン向け債権と同様に貸倒引当金を積む必要が出てくるかもしれない。そうなれば損失は俄然拡大する。
B 9月中間決算は軒並み赤字かもしれない。
A 赤字の度合いにもよるが、銀行の融資姿勢が慎重になる可能性は否定できない。その動きが広がると、信用収縮という状況に発展する。
C 見落とせないのは九月一六日の株式市場で、不動産業など十数社の株価がストップ安となったことだ。それらの企業に対して、リーマンは不動産の証券化などで資金を供給してきた経緯がある。リーマンが潰れたことで、それら企業の今後の資金調達に支障が出るのは必至。下手をすると連鎖倒産だ。(後略)