記事(一部抜粋):2008年9月掲載

連 載

【政治の読み方】武田文彦

韓国との国交断絶も覚悟せよ

 人間には感情というものがある。喜怒哀楽があるからこそ、人間は人間たりうる。怒るべきときに怒らず、笑うべきときに笑わなければ、その人は得体も正体も他者に正しく理解されないし、場合によっては精神活動の異常さを疑われかねない。
 感情は国家という大きな括りにも当てはまる。国家が人間によって形づくられている以上、個々の感情の集積が国家の感情として臨機に出現するのである。だから、外交などで怒りの感情を表明しなければならないときに、様々な思惑や都合のために怒りを露にしなかったり、冷静を装って度を過ごした自制の反応を示してしまうと、国家の意思は正しく相手側に伝わらない。これでは真っ当な外交などできはしない。
 外交を担う者は不確定な成果や結果を思料するより、まず自分たちが怒っていること(なぜ怒っているのか、どのくらい怒っているのか)を相手側に正確に理解させなければならない。それが正常な外交交渉の起点である。
 思うに、戦後の日本の対米、対ソそして北を含む対朝鮮の外交は、怒るべきときに怒らない、情けない異常な外交であった。たとえば竹島を不当に軍事占領している韓国に、日本は国民の怒りをぶつけてきただろうか。
(中略)
 ところが竹島問題で騒ぎ立てるのは、日本ではなく常に韓国なのである。今回も、日本が中学社会科の新学習指導要領解説書に「竹島はわが国固有の領土」という表現を盛り込もうとしただけで、韓国は朝野こぞって大騒ぎした。駐日大使を一時帰国させ、自国の首相を竹島に派遣、あわせてイージス艦を出動させて対日本を想定した竹島防御の軍事的プレゼンスを展開したのである。一部の国会議員に至っては「対馬も韓国の固有の領土であると日本に対して主張すべきだ」と言いだす始末である。
 こうした韓国側の反応に、私は正直むかっ腹を立てているわけだが、一方で、韓国の外交は少なくとも日本の外交よりも正常であるとも思うのだ。自国の領土と信じている竹島を日本に公式に否定された、韓国の国民が怒るのも当然であろう。
 私が怒りを禁じ得ないのは、一連の韓国の反応もさることながら、それに対する日本の異常な外交に対してである。
 わが国が教科書に何を書こうが、それは日本の内政問題である。日本は韓国の批判など無視すればいい。韓国の駐日大使が一時帰国するなら、間髪入れずに日本も駐韓大使を引き上げればいいし、韓国の首相が竹島に乗り込むなら、日本の首相は強くそれを非難する声明を発する。それが正常な外交というものであろう。そうした正常な外交に対して韓国がさらに強行な手段に訴えるなら、経済的な利害などは超越して、日本はしばしの国交断絶をも覚悟して領土に対する強い国家意思を表明すべきである。友好必ずしも善ではないのだ。
 ところが日本は実際にどうしたかというと、町村信孝官房長官が記者会見で次のように評論しただけだ。
「こういう形(韓国首相が竹島を訪問したこと)で違いをあおる行動はあまり適切なものとは思われない。いずれにしても冷静に対応していくことが大切だ」
 いったい日本の外交に誇りというものはないのだろうか。イージス艦を出すということは、場合によっては日本との開戦も辞さないという究極の国家意思の表明ではないか。それを「適切ではない」の一言で済ますなら、韓国は自国の振る舞いに日本がどれほど怒っているのか全く理解できないに違いない。いや日本は怯えているとすら思うだろう。なにしろ今回の騒動で、日本は新学習指導要領解説書に「竹島はわが国の固有の領土」と直接明記しないことになったのだ。 
 相手に言いたいことを言われ放し。不法行為のされ放題。これでは日本の政治に対韓外交は存在しないも同然である。いっそのこと外務省は名前を変えて「接遇省」とでもすればいい。(後略)

 

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