記事(一部抜粋):2008年9月掲載

社会・文化

「スルガ」「アーバン」倒産の裏事情

反社会的勢力という「認定」だけで企業を追い詰めていいのか

 大阪府が本気で公共工事からの「暴力団排除」に乗り出している。
 2006年4月にスタートした「大阪府暴力団等排除措置要綱」は、大阪府警と連動して暴力団と関係の深い企業を、公共工事から締め出すもので、翌年には大阪市も巻き込んで「網の目」を細かくし、暴力団周辺企業を震え上がらせている。
 従来、「暴力団員が経営に実質的に関与する企業」や「暴力団員を事業活動に利用した企業」は、指名停止の条件だった。しかし暴力団が前面に登場する例は少なく、「暴力団員との親密な交際で威圧」や「暴力団関係企業と知りながら下請けに起用」という形で暴力団と関係する企業が一般的だった。「要綱」は、そのグレーゾーンを防ぐ手立てである。
 府と市は、「要綱」によって、「怪しい企業」を府警捜査4課に「認定」させ、大阪府総務部契約局や大阪市契約管財局に通報させる。こうして公共工事から排除された企業は、「暴力団関係先」という烙印を押され、事業活動を大きく制約されるのだから府警も慎重にならざるを得ず、「通報」は2カ月に1度程度でそれほど多くはない。
 しかも「通報」の中身は、暴力団幹部との細かな交遊を拾い上げた印象で、悪質さを感じさせるものは少ない。逆に言えば、それだけ「怪しい企業」も暴力団との交際には気を使っており、府警は「交際の実例」を探すのに苦労しているということだ。
 直近の7月28日、府警は堺市の建設会社2社を「通報」した。その理由は、両社の経営者が昨年6月、山口組系暴力団の若頭に、自宅購入祝いとして現金100万円を贈り、その翌月、内祝いとして50万円を受け取った事実があるうえ、中元・歳暮を欠かさない仲だったからである。
 また6月5日には、大阪市旭区の建設会社を「通報」した。理由は建設会社社長が、山口組系暴力団の幹部に、「コーヒーやビールの詰め合わせ(8500円相当)」を贈り、幹部の側から「調味料詰め合わせ(1万円相当)」を受け取ったというものである。
 むろん、それ以上の親密な関係を掴んでいるから、「盆暮れの挨拶」を「通報」の条件としたのだろうが、かなり思い切った暴力団関係企業という「認定」であり、府警に頼らざるを得ないのも無理はない。「どうして指名停止にした!」と、怒鳴りこまれると、役人ではとても対応できない。
 もっとも、こうした組織を挙げた締め出しは、暴力団の多い大阪特有のもので、他の都道府県はここまで厳しく対応しておらず、東京都などは「暴力団構成員」という警視庁の「認定」があれば排除する程度である。
 実は、「暴力団排除」はもっと大がかりに始まっている。この排除は、公共工事に伴う指名停止ではないから「認定」の理由が大阪府の例のように明示(社名や個人名まで明かされる)されるわけではない。だから余計に厳しく不気味だ。
 その実例が今年、大型倒産したスルガコーポレーションとアーバンコーポレイションである。両社は「反社会的勢力」という「事実上の認定」によって倒産した。
「事実上の認定」とは昨年6月、政府が策定した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」に基づくものだからで、この「指針」には、府警の「認定」のような根性を据えた決め付けがないので、どうしても「事実上の」というあいまいな表現になってしまう。(後略)

 

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