福田康夫が8月1日に行った内閣改造で、中川秀直は無役だった。それどころか、経済対策で対立する与謝野馨が経済財政担当相に登用され、面子を失った。その不満を中川がぶつけた相手は小泉純一郎。ただ、やり方は巧妙で、自分の処遇には言及せず、保利耕輔の自民党政調会長、野田聖子の消費者行政担当相が「反郵政民営化路線の政権という印象を国民に与える」と小泉を挑発した。
しかし小泉は取り合わなかった。保利と野田が3年前、ともに郵政民営化で造反、自民党を離党したのは確かだ。小泉はいう。
「福田は反郵政改革ではない。保利も野田も父親が福田赳夫先生と親しく、その関係で康夫さんとも旧知。よく知っている議員が党内に少ないから、能力があり信用できる人を選んだだけだ」
小沢一郎の民主党と綿貫民輔、亀井静香の国民新党が次の衆院選では「郵政民営化見直し」で共闘すると約束した。それに比べれば、郵政民営化路線を維持すると約束している福田は小泉の味方。もともとは、同じ釜の飯を食った情から福田の首相就任を支持した小泉だが、今は福田を担いで次の衆院選でなんとか与党で過半数をとるのが目的だ。
難航したとはいえ、福田が麻生太郎を説得して幹事長を引き受けさせ、公明党も最終的に内閣改造に協力したことで、次の衆院選を福田内閣のまま戦う路線が敷かれた。公明党の要求は来年1月、通常国会冒頭の解散。7月の都議選に全力で取り組むためにはそれ以降の衆院選は障害だ。「よほどのこと」がないかぎり、福田は公明党・創価学会の要求に応じざるを得ない。小泉や森喜朗らも、そうした政局展開は承知している。
「よほどのこと」とは、1月以前に福田内閣の支持率がさらに落ち込み、福田内閣のままでの選挙が惨敗必至となるケース。その時は麻生に政権交代し、新政権の熱気が残るうちに、即座に解散総選挙を行う。景気が低迷する現状で、その可能性が皆無ではない。これも自民党、公明党の幹部のほとんどが想定している。
麻生が幹事長就任という「賭け」に出たのは、福田の不人気が政権の命取りになるケースを想定したからだ。福田政権の幹事長として選挙に臨み、敗北して民主党に政権を奪われれば、首相の座は霞の彼方になる。できれば選挙前に福田が行き詰まり、禅譲が実現するのがいい。福田が麻生を口説くにあたり「自分の手で解散するつもりはない」と言ったというまことしやかな風説は、麻生のそうした期待を言い当てたものだ。(後略)