記事(一部抜粋):2008年8月掲載

連 載

【狙われるシルバー世代】山岡俊介

「生活保護者」は打ち出の小槌「不正請求医師」の呆れた手口

(前略)そうした中、筆者のもとに、とんでもない医師の情報が寄せられた。その医師は不正請求を行っていただけでなく、その事実を質した患者に暴行を働き、傷害を負わせたというのだ。
 にもかかわず、こうした不正をチェックする社会保険事務所にはその情報すら届いていない。その患者(被害者)が、一方では医師と「共犯」の関係にあったからだ。
 疑惑の医師は、東京都練馬区内で個人病院のS医院を開業するS院長。一方、被害者はこのS医院に通院していたN氏。
 この傷害事件の金銭補償をめぐって、互いの弁護士同士でやりとりしている内容証明郵便書面によれば、経緯はこんな具合だ。以下はN氏の代理人弁護士がS院長に出した「通知書」(今年3月14日付)。
《通知人は以前から貴医院で診療を受けている患者ですが、約6カ月前に貴殿が生活保護を受けている患者のT氏(女性、後述)の診療報酬を不正請求していることを通知人が他に漏らしたことを理由に平成20年1月20日頃、貴病院への出入禁止を申し渡されました》
《通知人は平成20年1月28日、同棲中のT氏の今迄の診療明細、処方箋を戴きたい旨申し出たところ、同日午後6時、貴医院の待合室において貴殿から数回蹴られる暴行を受けました。この暴行により通知人は全治5日の加療を要する左大腿部打撲の傷害を受けました》
《通知人(は)平成20年2月15日、午後6時頃、上記受傷について、貴殿から第三者の行為による傷害届に署名捺印をもらうため貴病院を訪れたところ、前と同様、貴殿は貴医院の待合室において、通知人に対し、生きて帰さない、といいながら、マフラーで首を絞め付け平手・拳骨で顔面を約10発殴り、腹部、大腿部等を約10回蹴るなどの暴行を加えました》
 これに対し、S院長は不正請求はしていないと回答。ただし暴行を働いたことは認めている。
《通知書には、回答人が診療報酬の不正請求をしているが如き記述がありますが、そのような不正請求の事実はありません》(S院長代理人弁護士の「回答書」、3月18日付)
《事情聴取したところ、SがN氏を殴った理由は、N氏にある良からぬ人物との付合いを止めるよう勧告するとともに、何故その人物に対して、Sを困らせるような嘘を言ったりしたのか、N氏を戒めるつもりで、愛の鞭と思って殴ったとのことです》(同、4月15日付)
 N氏はこう証言する。
「S氏が不正請求しているのは明らかです。その手口は生活保護を受けている人を使って水増し請求するというもの。私自身、Sに頼まれて中野区在住のT子さん(前出通知書ではT氏)を、わざわざ練馬区のS医院に転院させたくらいですから」
 S院長をよく知る関係者がこう解説する。
 「生活保護受給者は医療費の自己負担がゼロ。だから病院は患者に領収証を出す必要がなく、その気になれば不正請求はやり放題です。S院長はN氏の診療分を彼女に二重請求することもありました。そのときはさすがに、N氏に3割の自己負担はさせませんでしたが。また、すべての患者にE薬局を勧め、バック・マージンを受け取ってもいました」
(中略)N氏がいう。
「S病院でのT子さんの医療費は毎月50万円にもなりました。それで彼女は(生活保護費を出し、医療費の支払い者でもある)中野区の生活福祉課に呼び出され、これ以上、S病院に通わないよう通告されたのです。S院長には区から問い合わせの電話を入れたそうです。私は彼女に同行して区役所に行ったので、間違いありません」(後略)

 

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