(前略)7月4日、セブン‐イレブン・ジャパンの加盟店オーナーが、「店に並べた商品の本当の仕入れ代金を教えろ」と同社に求めた訴訟で、最高裁第二小法廷(古田佑紀裁判長)は「セブン‐イレブンには報告をする義務がある」との判断を下した。オーナー側を敗訴とした二審・東京高裁判決は破棄、報告すべき具体的内容を審理しなおすため、同高裁に差し戻した。本誌五月号で予想したとおりの「セブン‐イレブン逆転敗訴」。ブラックボックスと化している同社の会計システムの暗部が、いよいよ明るみになる可能性が出てきた。
それにしても奇妙な事案である。加盟店オーナーが、自店で仕入れている商品の「仕入れ代金」を知りたいと思っても、セブン‐イレブン本部はそれを教えてくれない。それでオーナーが裁判に訴え出たというのだが、そもそも、独立した事業主であるオーナーが、本来なら知っていて当然の「仕入れ代金」を知らずに店の経営をしているというのが不可思議だ。セブン‐イレブンが1号店(東京・豊洲)をオープンしたのは1974年。以来30年以上が経過し、店舗数は現在1万2000(国内)を超えるが、1万人を超すオーナー全員が、いまも、自分の店の商品の仕入れ代金を知らずに店を経営しているというのだ。
訴えの内容も不思議なら、東京地裁・同高裁の判決も世間の常識からかけ離れていた。「本部はオーナーに仕入れ代金を教えてやる必要はない」としたのだ。「現代の奴隷契約」などと揶揄されるコンビニ・フランチャイズ契約の不平等性には一切目を向けず、「仕入れ代金を教える定めが契約書にない」ことを理由にオーナーの請求を門前払い。企業会計の透明性、積極的な情報開示を求める時代の空気をまったく読まないKY判決だった。
それを破棄したという点で今回の最高裁判決は評価できるが、考えてみれば、仕入れ代金を教えるなどは当たり前のこと。それを教えずに良しとしてきたセブン‐イレブン本部の姿勢こそ問題なのである。
オーナーが訴訟を起こしてまで仕入れ代金を知りたがったのは、本部が仕入れ代金をピンハネしているのではないかと強く疑っているからだ。というのも、日本で最大最強の小売チェーンであるセブン‐イレブンは強大なバイイングパワーを擁しており、当然、他社より安く商品を仕入れられると考えられるのだが、実際にオーナーが仕入れる商品の原価は、スーパーなどの「小売価格」より高いケースが少なくないのだ。
オーナーは仕入れ代金を知らない、とここまで書いてきたが、実際は個々の商品の仕入れ原価を本部から知らされてはいる。〇〇という飲料の仕入れ原価は1本あたり〇〇円といったデータが、各店舗に設置してあるストアコンピュータを通じてオーナーのもとに送られてくるからだ。しかしその価格は総じて割高。そこで問題となるのが、本部がオーナーに知らせている原価×仕入れた本数通りの金額を、本部が仕入れ先に本当に支払っているかどうかが、オーナーには分からないということだ。
オーナーは商品を、本部が推奨するいくつかのベンダー(取引業者)から直接仕入れている。本部が提供するコンピュータシステムを通じてベンダーに商品を発注し、それを受けてベンダーは商品を店に届ける。代金は本部が、オーナーから預かった売上金(オーナーは売上金を毎日、本部に送金している)の中から支払う。つまりセブン‐イレブン本部は卸業者ではなく、オーナーからベンダーへの支払い業務を委任された「代行業者」という位置づけだ。
商品を仕入れる主体はあくまで独立した事業者であるオーナー。だから本来であれば、ベンダーはオーナーに請求書を発行し、代金を受け取った時点で領収書も発行しなければならない。しかしセブン‐イレブンのフランチャイズシステムでは、そうした帳票類がオーナーには一切発行されない。つまりオーナーは、〇年〇月に仕入れたXという商品の代金が、いつ誰に支払われたのかを知ることができない。本部が仮に仕入れ代金をピンハネしていても、オーナーにはそれを確かめるすべがないのである。
本部は「ピンハネなどしていない」と説明しているが、口でそういうだけで、ピンハネをしていない証拠となるベンダーからの請求書などは絶対に開示しない。そうした本部の姿勢に疑問符をつきつけたのが、今回の最高裁判決にほかならない。(後略)