(前略)みずほFGの最終的な責任は、もちろん持株会社の社長である前田が負うが、FGの決算が大幅な減益に見舞われた直接の責任は、みずほCB頭取の斎藤にあり、その子会社のみずほ証券のトップにある。しかし斎藤は責任を取らない。それがみずほグループ内の感情的なしこりになっている。今回の斎藤の不倫発覚の背景にも、それがあるというのが複数の関係者の見立てだ。
減益決算の責任をめぐる感情的なしこりに、さらに輪をかけたのが、6月20日に支給された夏季賞与だった。
みずほFGは、行員の士気を鼓舞するため、06年度から業績に連動する「インセンティブ賞与」制度を導入している。初年度にあたる06年度は総額20億円が、07年度は7億円が、通常の夏季賞与に上乗せする形で、みずほCBとみずほBKの行員に支払われた。これは、公的資金注入に伴い金融庁に提出した経営健全化計画に縛られて、年間給与総額が低く抑えられていたことへの見返りの意味合いを含んでいる。
だが、直近の決算で純利益が半減するなど大幅な減益となったことから、みずほFGはこの夏のインセンティブ賞与の支給を見送る方針を決めていた。
ところがホールセールを担うみずほCBは「インセンティブ賞与を支給しなければ優秀な人材が流出しかねない」との理屈をつけ、FGの意向を無視して支払いを断行した。リテールバンクのみずほBKがFGの方針通り、インセンティブ賞与を見送ったにもかかわらずである。グループ内の軋轢は否が応でも高まらざるを得ない。
もとはといえば、みずほCBの経営判断のミスが祟って大幅な減益を余儀なくされたのに、元凶のみずほCBはインセンティブ賞与を支払い、地道に個人や中小企業取引で収益を積み上げるみずほBKでは見送られた。割り切れない思いが澱のように沈殿しただろうことは想像に難くない。
グループ内での給与格差については、以前より問題視する声が絶えなかった。みずほCBの子会社であるみずほ証券は、投資銀行業務の中核企業となるべく、中途採用に力を入れてきた。そして外部から優秀な人材を引き抜くため、実績に連動した給与体系が採られた。その結果、「年収が1億円を超える社員も出て、社長より社員のほうが高収入、という逆転現象が生まれた」(みずほ関係者)という。欧米の投資銀行では当たり前のことといえばそれまでだが、グループ共通のプラットフォームで採用や人事を管理するのが基本のみずほFGにあって、十分にコンセンサスがとれていたかといえば疑問だ。
(中略)
今年3月のグループ役員人事では、旧富士のエースで、ポスト前田の最有力候補とみられていたBK副頭取の野中隆史が、みずほ信託の社長含みで転出させられた。BKの取引先であった人材派遣会社大手グッドウィル・グループ向け巨額融資が不良債権化し、クレジット委員会委員長だった野中が詰め腹を切らされた格好だ。しかしグッドウィルの折口雅博を育てあげ、追加融資を重ねてきたのは、旧一勧であり、野中にその責を負わせることには無理があった。しかし前田はこの人事を承認した。
一説には、前田は自らが日本経団連副会長を兼務することになったため、今年三月の人事でFG会長に退き、後任にBK頭取の杉山を充て、その杉山の後任に野中を、そしてCB頭取には、斎藤の腹心といわれるCB副頭取の佐藤康博を昇格させる案を練っていたとされる。FG社長として全銀協会長を務めた前田は、その座をそっくり杉山に踏襲させようとしたのだ。
しかし、この前田主導の人事案に、斎藤が待ったをかけた。CB会長に退くにはタイミングが悪過ぎたからだ。
CBはサブプライムローン関連投資で巨額の損失を計上し、傘下のみずほ証券の増資引き受けを余儀なくされた。この時期に退けば、引責ととられかねず、院政を狙う斎藤にとっては都合が悪い。少なくともあと1年は続投したい。サブプライム関連の損失では共同責任を問われる前田と杉山も、最後は斎藤の続投要求を飲まざるを得なかった。
みずほは全銀協に、前回の前田とは異なり、FG社長でなくBK頭取(杉山)が全銀協会長を受ける旨を申し入れた。
斎藤の居座りに対し、金融庁は不快感を露にしたともいわれている。みずほ証券の損失処理に伴う資本増強のため、1500億円もの増資引き受けをCBが行うことに対し、金融庁は「グループ内の資本の付け替えにすぎず、経営責任を不問にしたままの増資は不適当」と横槍を入れたというのだ。最終的に増資は容認されたが、金融庁と斎藤の間でどういう手打ちが行われたのかは気になるところだ。
「斎藤がすんなりと会長職に退かないのは、実は別の理由がある」と、みずほ関係者はいう。「院政を敷くためには後任に有能な腹心を就けなければならないが、斎藤が推す腹心の佐藤康博を追い落とそうとする勢力がある」というのだ。
その勢力の中心と目されるのがBK副頭取の小崎哲資。佐藤とは旧興銀の同期で、03年春の「1兆円増資」を成功に導いた立役者。小崎と斎藤はそりが合わず、反目する関係にあるといわれている。
その1兆円増資の普通株への転換が、この夏から始まった。取引先に出資を仰いだ過去の経緯もあって、ここで小崎を外すことはできない。その小崎を買っているのが前田だという。
「旧第一勧銀の内紛に乗じて杉山を引き上げ、有力な一勧人脈を追放し、今また、小崎を一本釣りすることで旧興銀人脈を分断するのが前田の狙い」と興銀OBは警戒する。
そうした矢先に飛び出したのが斎藤の不倫騒動。これは、はたして偶然なのか。(後略)