(前略)こうした金融市場の沈静化を受け、ヘンリー・ポールソン米財務長官は5月7日、AP通信のインタビューに応え、サブプライム問題に伴う金融市場の混乱について「最悪期は脱した」と語っている。
だが、これでサブプライム問題がすべて解消したとみるのは早計だ。事態の収拾にあたっているFRBのベン・バーナンキ議長は5月15日、シカゴでの講演で、これまでの金融機関の増資の動きを「勇気づけられる」と評価しながらも、「市場の不安定な状況は続いている」と厳しい認識を繰り返し示した。そのうえで、「資本増強の努力を前向きに続けるよう金融機関に求める」と、増資の継続を求めている。
バーナンキ議長の念頭にあるのは、最悪期は脱したとはいえ、依然、追加損失の発生が見込まれる証券化商品の価格下落リスクである。一連の証券化商品の価格低下が他の有価証券の市場に飛び火し、高格付けの優良資産の価格低下に波及したり、信用収縮に伴う景気後退から不良債権が増加して実体経済に影響を及ぼすことを懸念しているのだ。資本増強の手綱を緩められる状況ではないという認識である。
そうした中、今後の最大の焦点とみられているのが米会計基準で2月末以降の四半期決算から開示が義務付けられた「レベル3」と呼ばれる金融機関の資産の動向である。
米会計基準では、有価証券は、流動性が高く時価が測れる「レベル1」、参照できる指標がある「レベル2」、そして流動性が薄く時価がない「レベル3」の3タイプに分類されている。このうちレベル1と2は、市場でのフェアバリューを算出できるので、適正な損失処理を行えるが、流動性に乏しいレベル3は、市場価格が存在しないことから、適正な価格の算出が難しく、その評価には金融機関の恣意性が入りやすい。
このレベル3の資産をポートフォリオに抱えたままの金融機関が実は少なくなく、残された最大のハードルとなっている。実際、サブプライム関連の損失を少なく見せるため、意図的にレベル2の資産をレベル3に移し替え、損失の顕在化を先送りしてきたケースもみられるのだ。
このレベル3資産の自己資本に占める割合は、実質経営破綻したベアー・スターンズでは三〇〇%を超え、モルガン・スタンレーやメリルリンチでも二〇〇%を超えるとの試算がある。(後略)