経 済
福田と新聞を手玉にとった財務省
日銀総裁人事「迷走」の舞台裏【金融ジャーナリスト匿名座談会】
(前略)
B その某紙といえば、日銀総裁人事が難航していた際、1面で大きく論説主幹の「手記」を載せていたけど、これにはちょっとびっくりしたね。
A たしかあの頃といえば、坂篤郎・副官房長官補などが全国紙の大物記者たちを回って、「武藤敏郎副総裁の昇格でいいんだ」と必死に説明に動いていた。坂氏は武藤氏と同じ財務省出身のエリート。明らかに財務省による根回しだった。そのタイミングといい、根回しの際の説明内容といい、その1面手記とばっちり合っていたね。
C ウチも含めて、社説の内容は各紙ともほとんど同じだったよね。まあ、同じ人からレクチャーを受けてるんだから、記事の内容が同じになるのも当たり前か(笑)。こんな裏話をすると、新聞の読者はがっかりするだろうけど。
B まあ確かに、総裁は武藤氏でよかったったのかもしれない。副総裁としての5年のキャリアもあるわけだし。
A それに対して「財政と金融の分離」という観点から財務事務次官経験者の武藤氏はダメと反対してきた民主党の論法は幼稚だった。政府はその幼稚な論法を打ち崩すことができなかったばかりか、同じ土俵に乗ってしまった。
C 民主党が強硬に主張する「財政と金融の分離」論に対しては、「たしかに分離が望ましいのですが、非常事態なので、今回は武藤さんでお願いしますよ」と頼むのが政府、あるいは与党がすべきことだった。ところが、「財政と金融の分離という考え方自体が間違っている」とけんか腰になってしまった。なぜ、そんなことになったのか。財務省にとって大事なのは武藤氏を総裁にすることであって、財政と金融の分離問題のシロクロをつけることではなかったはずなのに。
A 財政と金融の分離が正しいということになって困るのは財務省だけ。実はそこが大事なポイントだ。政府としては「財務省寄りになったら辞めると、武藤氏から言質をもらう」と言いさえすればよかった。しかし実際に総裁人事で動いていたのは首相官邸というより財務省だったから、本当の意味での政治的な発想ができなかった。財政と金融の分離は間違いだと主張しないと、将来に祟ると考えたのだろう。
B それにしても、日銀人事の迷走はひどかった。初めの政府提案は「武藤総裁、白川方明副総裁、伊藤隆敏副総裁」だったが、結局、白川氏だけが衆参両院で同意されて決定した。不思議だったのは、なぜ伊藤・東大教授が副総裁候補になったのかということ。
A どうやらこれも財務省の画策だったらしい。つまり、武藤総裁を実現するために、民主党が反対するに決まっている伊藤氏をあえて担ぎ出した。「伊藤副総裁は不同意でも結構。ただし武藤総裁は認めてくださいね」というガス抜きを狙ったのだろう。
C その情報は私も聞いた。本当だとしたらひどい話だね。伊藤氏はインフレターゲット導入論者だから、民主党が賛成するはずがない。にもかかわらず、副総裁候補としたのは、やはり人柱として扱う腹だったのだろう。そんなことを思いつくのは財務省だけだ。
A 伊藤氏は意見聴取の国会の場で、インフレターゲットには必ずしもこだわらないという主旨の発言をしている。あの場ではそうならざるを得ない。しかし、伊藤氏をそんな立場にまで立たせておきながら、あらかじめ不同意になるのを想定していたのだとしたら、伊藤氏に副総裁候補を要請した政府や財務省の罪は重い。はたして連中にそうした罪の自覚はあるだろうか。(後略)