社会・文化
「キヤノン御手洗」と謎のフィクサー
脱税疑惑が、経団連会長、キヤノン、鹿島、大分県知事に飛び火?
キヤノンは、日本を代表する製造業の大企業である。バブル経済の崩壊以降、日本は自信を失っているが、今も強みは製造業が一流を保っていることで、キヤノンはそのなかでもトヨタ自動車と並ぶ「エクセレントカンパニー」だろう。
キヤノン会長・御手洗冨士夫氏の日本経団連会長就任は、精密機械という分野から出発した独立系のキヤノンが、名実共に日本有数の企業となった証であり、創業者の御手洗家の出身地である大分県も大いに盛り上がった。御手洗家の縁で、大分県にはキヤノンの工場が多いからである。
そのキヤノンの子会社「大分キヤノン」と「大分キヤノンマテリアル」の工場建設をめぐって、2007年末に脱税疑惑が発覚、マスコミ各社が取材合戦を展開して騒動となった。
大分県政界関係者の話――。
「新聞テレビに週刊誌まで加わって、県議会や土地公社、キヤノン工場などを取材して回ったので、『大きな事件になるんじゃないか』と、一時はたいへんな騒ぎだった。でも結局、報道は少なく、沈静化してしまった」
沈静化したわけではない。
脱税事件は東京地検特捜部の専門部隊である財政経済班が担当するのだが、今回は直告二班が受け持つことになった。脱税事件以上の思惑が検察にあるためで、その分、捜査は慎重となって「時間をかけてやる」(検察関係者)のだという。それは逆に、事件としての広がりを感じさせる。
脱税疑惑の構図はシンプルである。
「大分キヤノン」の工場は03年、「大分キヤノンマテリアル」の工場は05年に稼動を開始した。そもそもこの隣接する2つの工場は、土地を所有する大分県土地開発公社が鹿島に造成工事を発注、その土地をキヤノンに売却、キヤノンは工場建設を鹿島に発注――という経緯でできたもの。
東京国税局が鹿島に対して行った税務調査の結果、06年3月期までの間に6億円の所得隠しが発覚。この工場建設に絡むものであったが、鹿島は使途を明らかにしないため、国税当局は「使途秘匿金」として制裁課税のうえ、資金の流出先と見られる大分市内のコンサルタント会社である大光に、強制調査をかけた。申告漏れの総額は約30億円だといわれている。
明らかになっているのは、鹿島と大光という地元コンサルタント会社との不明朗な金銭問題である。キヤノンは発注者ということで、疑惑の当事者ではない。だが、その背景が明らかになるにつれ、キヤノンあるいは御手洗会長にも事件が波及するのではないか、という観測が拡がっている。
その大きな理由は、御手洗会長と大光の大賀規久社長との「特別な関係」である。
キヤノンの創業者は御手洗氏の叔父の毅氏で、御手洗家は代々、医者を家業とする蒲江町(現佐伯市)の名門だった。弁護士を志した冨士夫会長は、地元の佐伯鶴城高校に入学、そこで大賀健三氏と知り合い、親しくなる。規久氏は健三氏の弟だった。
それだけなら大賀兄弟は「地元の友人」に過ぎないのだが、キヤノンUSAの社長を務めるなど米国勤務の長かった御手洗氏が1989年に帰国、横浜に家を求める際、建設会社の日建を経営する大賀健三氏に購入を依頼したことで関係が深くなった。
この自宅の件は、日建が90年に土地を購入、家を建てて御手洗夫妻に売却したことが不動産登記簿謄本からうかがえる。隠し事というわけでもない。
むしろキヤノンと大賀家の関係は、温泉で知られる大分県の湯布院で、大光が関係した土地にキヤノンが「あさぎり館」という保養所を建設したことで深くなる。この時から、キヤノンとの関係は、健三氏ではなく8つ年下の規久氏が担うようになる。
30億円の申告漏れを疑われている大賀規久氏とは何者か。
(後略)